タリバン敵視ではなく対話を通じたアフガニスタン支援を
2021年9月9日
特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター
アフガニスタンでタリバンが権力を掌握して3週間が経過しました。米軍の撤収が完了し、タリバンの新内閣が発表されました。事態がどう動くか、世界が注目しています。
私たちはアフガニスタンにおいて、今年5月に活動を終了するまで約20年にわたって医療や教育、平和アクションなどの支援活動を実施してきました。これまで現地に関わってきたNGOとして、アフガニスタンを取り巻く状況と、国際社会、日本政府やマスメディアの対応に関して、以下の通り意見を表明します。
タリバンの権力掌握以降、多くのマスメディアは連日のように、国外退避を求め空港に殺到する人々や20年前のタリバン統治時代の記憶から恐怖におびえる市民の声を報道し、タリバンの復権が「悪」であるという印象を国際社会に与えてきました。その後も家宅捜索や殺害事件、デモ隊への暴力などが報道されています。一方で地方都市や農村部では状況は平穏であるとの情報もあります。20年にわたるアフガニスタン戦争の終結に安堵する現地の人々の声も報じられています。現地の状況は多様かつ複雑であり、一面的な判断をすることなく状況を見て対応していく必要があります。
他方、日本を含め欧米諸国やメディア、多くの識者は、この20年間の「民主化」の成果を強調し「90年代のタリバン時代に後戻りさせてはいけない」と主張しています。しかし、占領下の20年がアフガニスタンに遺した負の影響も忘れてはなりません。
2001年、米軍によるアフガニスタン侵攻によって当時のタリバン政権は崩壊しました。
その後現地に入ったJVCスタッフによれば、当時は米軍に対して「この国をいい形に変えてくれるのではないか」と期待する人々もいましたが、現実はその希望とはかけ離れたものになりました。駐留した米軍はタリバンに対する軍事活動を繰り広げ、誤射・誤爆によって多くの罪のない一般市民の命が奪われました。米軍により不当な拘束を受けた人々も数多くいます。JVCが運営していた診療所の近くにも誤爆があり、近隣の村では結婚式の最中に米軍による爆撃を受けて子どもを含む47人が亡くなりました。
アメリカがタリバンとの和解ではなく「掃討」にこだわってきたために、戦争は20年間も続き、一般市民だけで4万から7万人ともいわれる犠牲者を出しました。この間、多くのアフガニスタン人が家族・親族の誰かを失っています。それによって人々の間に反米感情が広がり、タリバンの勢力拡張にもつながりました。この戦争に、日本も後方支援(インド洋での米軍艦艇への給油支援)の形で加担してきました。
この20年間がアフガニスタンの人々に与えてきた苦しみを振り返ることなく、それを単純に「正しかった」とだけ総括するわけにはいきません。今回、タリバンがアメリカを追い出してくれた、と歓迎する現地の声もあることを、私たちは受け止めなくてはなりません。
もちろん、この20年間に女子教育をはじめ、人々の様々な権利・人権の拡大が進んだことは間違いありません。私たちNGOもそれを支援してきました。そうした権利・人権は、今後も失われることがあってはなりません。
そのためには、また、この20年間の検証が必要という観点からも、タリバンを一方的に「敵視」することによって孤立させるのではなく、対話と交渉を続けていくことが重要です。今のタリバンは国際社会の目を意識していますが、ひとたび孤立してしまえば、あるいは特定の国々だけと関係性を持つようになれば、タリバン内の「強硬派」に力を与え、様々な権利が後退してしまう可能性もあります。
現地では、これまで開発や人権、平和の分野で活動をしてきたNGOや国連とタリバンとの対話がすでに始まっています。日本をはじめ国際社会は、アフガニスタンの人々の主体性を尊重し、現地の動きを見守りながら、対話を通じて基本的人権の尊重を訴え、アフガニスタン社会の平和と安定に貢献すべきです。
私たちはこれまで世界各地の活動経験から、特定の政治勢力に対してメディアを含む国際社会、とりわけ欧米や日本が「悪」のレッテルを張ることで、その対象を敵視する大衆の心理を生み出し、分断を招き、戦争・紛争を正当化してきた事例を見てきました。カンボジア、コソボ、アフガニスタン、イラク、パレスチナの紛争など、いずれもそうでした。アフガニスタンでのこれ以上の分断や新たな暴力の連鎖を避けるためにも、タリバンを一方的に「悪」とするのではなく、冷静にそして多面的に状況を見て、対応していくことが必要です。
タリバンとの対話を進めるにあたり、日本が果たすべき重要な役割があります。
日本の自衛隊は米軍を中心とした戦争への後方支援を行ったものの、地上侵攻はしませんでした。その点において、タリバンは日本に対して一定程度の信頼を寄せているといわれています。8月26日にはタリバンの報道官が「日本人を必要としている」「友好的で良い外交関係でいたい」と発言しています。国際社会がタリバンと対話する上で「架け橋」的な役割を果たすために、日本はタリバンとの正規の交渉窓口を作るべきです。
米軍による占領の終了は、アフガニスタンの未来に向けた契機でもあります。
いまは、占領のないアフガニスタンで、暴力の連鎖を避け、人々の生命や暮らしが保証され、これまで拡大してきた諸権利を後退させない形での国づくりに向けて、日本政府、私たち市民やNGO、メディアなどそれぞれが役割を果たすべき時です。
日本政府は、現地にいる邦人のほか、大使館・JICAあるいは日本のNGO団体のアフガニスタン人現地職員の国外退避のため、自衛隊機を派遣しました。結果的に対象としていた現地職員を退避させることができず終わりましたが、退避計画の段階から、対応は不十分なものでした。NGO現地職員に対しては、家族の帯同が認められず、退避後の身分保障は不明確で、数日内に隣国のビザを自力で取得しなくてはならないなど厳しい制約条件があり、退避はほぼ不可能と考えられました。日本に関係したアフガニスタン人で身の危険を感じ退避を希望する方々について、家族も含めて国外で保護を受けることができるよう、今後日本政府が適切な措置を取ることを求めます。
一方で、国外退避の呼び掛けや対応においては、現地の人々が置かれた状況に地域差や個人差があることが十分に考慮され、また退避後に関する情報が事前に共有されなくてはなりません。
現地では、国内に残ってタリバンと対話をしながら活動の継続を目指すNGOも存在し、既に活動を再開した団体もあります。従って、退避するかどうかは、個々のケースに応じて、アフガニスタンの人々の判断を尊重して対応がなされることを望みます。その際には、退避後の将来における身分や生活上のリスクを事前に理解・認識できるようにすることが重要です。出国すれば、あるいは日本に渡航すればそれで解決する訳ではなく、難民認定や受け入れ体制、再度アフガニスタンに戻れるかなど、長期にわたる課題があります。また判断・準備のための時間も必要です。
突然キャンペーン的な一律の退避呼び掛けが行われることがあれば、かえって心理的な不安を助長し、現地の人々の分断を招いてしまうことにもなりかねません。そうしたことにも注意を払いつつ、アフガニスタン国内の状況を見守りながら、冷静に対処することが必要だと考えます。
以上
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