プロサバンナ事業に関する取組み
JVCは2013年度より、日本のODA事業のひとつであるプロサバンナ事業に対して提言活動を行っています。2020年7月に、外務省から事業の「終了」が発表されていますが、JVCでは引き続き現地の状況を注視しています。
●詳しくは「モザンビークで何が起きたか? オンライン生報告 ~JICAプロサバンナ事業中止を受けて~」をご覧ください。
プロサバンナ事業(ProSAVANA-JBM)は、日本のODA事業のひとつで、正式には「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム」と言います。これは、アフリカのモザンビーク北部地域の千四百万ヘクタール(日本の耕作面積の三倍)を対象とする一大農業開発事業です。
「三角協力」とあるように、七〇年代日本がブラジルで行なった大規模農業開発事業(セラード開発、下枠参照)を成功モデルとして、日本とブラジルが連携してモザンビークで実施しようとするもので、その規模は中小農民四十万人に直接、間接的には三百六十万人の農業生産者に裨益(ひえき)すると謳われています。しかし、この事業はその実施プロセスにおいて様々な側面の問題を含んでいるとして、現地モザンビークの住民などから大きな批判を受けています。
ブラジル中西部に広がる熱帯サバンナで「不毛の地」と呼ばれたセラード地帯を、土壌改良の技術協力、企業との連携、農地造成や生産費の資金提供などをODAで行ない、大豆やトウモロコシを生産する世界有数の穀倉地帯に変貌させた事業。ブラジル版「緑の革命」と言われている。その反面、深刻な環境破壊などを招いたとして批判されている。
ProSAVANA事業とは、モザンビーク北部で日本政府がブラジル政府と連携して企業による大規模農業開発を支援するODA事業です。長期にわたる紛争の影響もあって貧困国として位置づけられるモザンビークですが、多くの農民達は小規模で必ずしも生産性が高いとは言えないものの家族とコミュニティを中心とした自給的農業を営んできました。土地は基本的に国に帰属しつつも憲法によって農民の利用が保証されているため、「所有する」という意識は希薄で、個人による独占や自由な売買にも限界があったために、むしろ自家消費中心の家族農業とコミュニティによる共同営農が主たる形態となり得たと考えられます。農民の食料主権もある程度守られています。
しかし、その一方で市場化が進む中で民間企業や投資家による大規模農業開発が徐々に入り込み、所有意識と権利関係が曖昧な農民から土地を取り上げていく土地収奪が急速に増加しています。ProSAVANAは、この文脈の中で計画されている事業です。政府としては国レベルでの農業生産性の向上をねらっていますが、(大規模な)企業経営的な農業の拙速な導入は、農民からの土地収奪を加速する可能性があります。また、政府のガバナンスの弱さから、紛争後の平和構築においてよく見られる中央への権力集中のために、こうした「開発」の意思決定に農民達が与れない問題があります。
すなわちProSAVANAは、食料主権と農業のあり方、土地収奪と農民の権利の問題、そして開発と住民参加など多様な問題を孕むものとなっています。JVCの活動地ではないものの、広くアフリカ開発のあり方を考える上で、またODA事業としては社会環境配慮ガイドラインなどのセーフガードポリシーの整備が遅れている新興国と協力する南南協力はどうあるべきかという問題を考える上でも、更に紛争後の平和構築として中央権力の集中と住民参加というガバナンス問題であるという点でも、JVCの活動と通底する点が多く、JVCがこれらの問題への視座や市民運動のあり方をて学び、様々な市民活動とのネットワークを拡げる上でも関与する意義は高いと考えられます。NGO外務省ODA政策協議会のスピンオフとして始まった「ProSAVANA意見交換会」を中心に、「モザンビーク開発を考える市民の会」をサポートしつつ、同事業の廃止あるいは抜本的見直しを目指しています。
この問題に対して、2013年8月に他団体と協働で現地調査を実施しました。そこでは、ProSAVANA実施者側が事業実施の前提としていたこと
と現実は真逆の状況であることが明らかになりました。
この調査に基づいて参加NGO共同で報告書を制作しました。 2014年当時のものですが、この問題に関しての詳しい資料となっております。
これまでプロサバンナ事業においてはその「不透明性」の問題が広く指摘されてきましたが、状況はいっこうに改善されません。これを受けて、私たち日本の市民社会は情報公開法に基づいて100件を超える公文書を入手してきました。そして2016年5月にはプロサバンナ事業に関する公文書46件が、以下のサイトに公開されました。
この度、これらに関する詳細な分析ペーパーを作成いたしました。
分析によってわかったのは、プロサバンナ事業が、現地農民・組織の声とそれを 支える市民社会の要請に応えるどころか、事業の枠内で、それらを弱め、分断・孤立させることを目的とした計画・活動が実行に移されてきたことです。詳細は分析ペーパーをご覧ください。
リーク文書からは、プロサバンナ事業の「コミュニケーション戦略」とそれに掛かる文書の存在が明らかになりました。
これを受けて、関連資料の情報開示請求をして入手したものが 以下の2点の政府文書です。
この度の分析はこの「コミュニケーション戦略」に関するものが中心となっています。
なお、分析結果を受けて、抗議声明も出しています。こちらもご参照ください。
ProSAVANA事業に関するNGO・JICA・外務省意見交換会で提示したNGO側資料(pdf)を収録・公開します。
NGO・外務省意見交換会の記録は、外務省ウェブサイト(ProSAVANA事業に関するNGO・外務省意見交換会)で公開されています。
財務省NGO定期協議の詳細につきましてはこちらをご参照ください。
http://www.jacses.org/sdap/mof/
http://www.jacses.org/sdap/mof/gijiroku61-70.htm
当日の配布資料は以下をご覧ください。
開催日 | 資料 |
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第61回 2016年3月15日 | 1_財務省提案議題:NGOによるプレゼンテーション 議題1: TICAD-VIへの期待 |
2_NGO提案議題 議題2: アフリカの債務持続性に関する 財務省の方針について |
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3_議事録 | |
第62回 2016年6月24日 | 1_NGO提案議題 議題5: モザンビークの債務問題と円借款の供与方針について 質問書、添付資料1財務省NGO定期協議会質問書 2016年6月JVC、AJF修正版 議題5資料 |
2_議事録 | |
第63回 2016年9月15日 | 1_NGO提案議題 議題3: モザンビークの債務問題と円借款供与方針について ~2016年6月 別添資料1~4 |
2_議事録 | |
第64回 2017年2月24日 | 1_NGO提案議題 議題1: モザンビークの債務問題と円借款供与方針(2016年6月、9月協議会フォローアップ)とJBIC・IFC・AfDBによるモザンビーク炭鉱関連インフラ開発事業への融資について(質問書P1~12) |
2_議事録(P2~7) | |
第65回 2017年6月26日 | 1_NGO提案議題 議題3: TICAD 閣僚会議に向けたアフリカ債務問題と円借款供与方針(モザンビークを中心に)(質問書P6~7) 議題4: JBIC・IFC・AfDB によるモザンビーク炭鉱関連インフラ開発事業への 融資関連資料の分析を踏まえた議論(質問書P6~8) |
2_議事録(P12~28) | |
第66回 2017年12月21日 | 1_NGO提案議題 議題3: JBICとアフリカ開発銀行のナカラ鉄道・港湾事業(ヴァーレ社/三井物産)への融資決定について(質問書P5~9) |
2_議事録(P11~18) | |
2018年4月11日 | ※ナカラ鉄道整備事業(特に事業による住民への影響・被害)に関するJBICとNGOによる面談 1_資料: 面談記録 ※当日、録音をとることについて合意が得られなかったため、 NGO側メンバーがその場でメモをとったものをここに記録として掲載する。 |
2018年8月9日 | ※ナカラ鉄道整備事業(特に事業による住民への影響・被害)に関するJBICとNGOによる面談 1_資料: 面談記録1、 面談記録2 ※当日、録音をとることについて合意が得られなかったため、 NGO側メンバーがその場でメモをとったものをここに記録として掲載する。 |
このプロサバンナ事業に対して、JVCは他団体と協力して現地住民の招聘や2013年8月に現地訪問も実施しています。この事業でそもそも問題とされている点や、現地訪問から見えてきた現地の様子などを会報誌で連載しています。
タイトル | 掲載号数 | 発行日付 |
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(1)モザンビーク・プロサバンナ事業とは何か? | No.300 | 2013年2月20日 |
(2)農民に向き合えない農業支援とは | No.301 | 2013年4月20日 |
(3)「食料安全保障」か「食料主権」か | No.304 | 2013年8月20日 |
(4-1)「説明・約束」と異なる 「現実」を前にして | No.305 | 2013年10月20日 |
(4-2)知らないうちに農地を失う農民たち | ||
(5)事業を止めるべきは誰か? | No.306 | 2013年12月20日 |
(6)モザンビークの農民を「弱く貧しい者」と見てしまう構造 | No.307 | 2014年2月20日 |
(7)食料安全保障とアグロ・フード・レジームの再編 | No.308 | 2014年4月20日 |
(8)土地収奪が起こるまで何もできないのだろうか | No.311 | 2014年8月20日 |
(9)政治力学に無垢を装う「開発」の虚構のなかで | No.312 | 2014年10月20日 |
(10)「農民の権利」を守るとは | No.313 | 2014年12月20日 |
(11)土地を耕すことは、未来への「土」送り | No.316 | 2015年7月20日 |
(12)支援の「結果」と「成果」の違い | No.318 | 2015年10月20日 |
(13)経済成長ありきで社会課題が解決するか | No.319 | 2016年1月20日 |
(14)隠され選別され強化される「参加」プロセスとは | No.320 | 2016年4月20日 |
(15-1)農民主権をめぐる考え方 | No.321 | 2016年7月20日 |
(15-2)農民たちが選んだ道のり | ||
(16)「時代遅れ」なニューアライアンス? | No.323 | 2016年10月20日 |
(17)政治化される人々、地域に関わる意義と可能性 | No.324 | 2017年1月20日 |
(18)政治の歪みを質さない日本 | No.325 | 2017年4 月20日 |
(19)「主体」としての農民、「客体」としての農民 | No.326 | 2017年7月20日 |
(20)小農からの「異議申し立て」が意味するもの | No.328 | 2017年10月20日 |
(21)「官民連携」におけるビジネスの責任をどう問うのか | No.329 | 2018年1月20日 |
(22)反故にされた 「外務大臣の指示」 | No.332 | 2018年7月20日 |
(23)「不都合な真実」から 目をそらし続けられるのか | No.333 | 2018年10月20日 |
(24)ODA事業実施に欠かせない 「相手国政府」との信頼関係 | No.334 | 2019年1月20日 |
(25)分水嶺に立つODA | No.337 | 2019年7月20日 |
(26)ODAから垣間見える国家の姿と市民のあり方 | No.339 | 2020年1月20日 |
(27)ODAの中心にSDGsを置くことは、不可能なのか? | No.342 | 2020年7月20日 |
(28)経済成長志向へ偏重するODAと市民の声 (本記事はラオスにおけるODAがテーマなのでリンクなし) |
No.344 | 2021年1月20日 |
タイトル | 掲載号数 | 発行日付 |
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抑圧下で小農が続ける実践、連帯と社会変革 | No.340 | 2020年5月10日 |
日付 | 声明タイトル | 発出元 |
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2012.10.11 | プロサバンナ事業に関する声明 | UNAC(モザンビーク全国農民連合/同国最大の農民組織) |
2013.5.9 | ニャンバネ・ギウア宣言(モザンビーク全国農民連盟UNAC年次総会2013年) | UNAC |
2013.5.28 | プロサバンナ緊急停止のための公開書簡 | モザンビーク市民社会、農民組織23団体 |
2013.9.30 | ナンプーラ州市民社会プラットフォーム公式声明 | ナンプーラ州市民社会組織プラットフォーム(PPOCS-N) |
2014.1.9 | 日本首相のモザンビーク訪問に対するADECRUのポジションペーパー | ADECRU(農村コミュニティ開発のためのアカデミック・アクション) |
2014.1.13 | 日本国安倍晋三首相のモザンビーク訪問に関するプレスリリース | ナンプーラ州市民社会組織プラットフォーム(PPOCS-N) |
2014.2.13 | モザンビーク現状に関するプレスリリース | UNAC |
2014.5.1 | UNAC(全国農民連合)2014年度年次総会 ナンプーラ宣言 | UNAC |
2014.6.2 | 「プロサバンナにノー! 全国キャンペーン」プレスリリース | UNAC、Justiça Ambiental-JA(環境正義)、ADECRU(農村開発のためのアカデミック・アクション)、Fórum Mulher(女性フォーラム)他、全9団体 |
2015.5.11 | 「プロサバンナ事業のマスタープランの公聴会」の即時停止と無効化の要求 | カトリック・ナンプーラ大司教区正義平和委員会、農村開発のためのアカデミック・アクション(ADECRU、現地のアドボカシーNGO) |
2015.5.15 | プロサバンナ事業のマスタープラン・ドラフトゼロの公聴プロセスに関する公式声明 | Observatorio do Meio Rural(農村監視研究所、農村開発政策に関する調査・研究・討論のための研究機関)、Plataforma Provincial da Sociedade Civil de Nampula(ナンプーラ州市民社会プラットフォーム、同州内200以上の農民・市民社会組織の連合体)、他8団体 |
2015.6.10 | 3カ国市民社会緊急共同声明 「プロサバンナ事業のマスタープランに関する公聴会」 の無効化呼びかけ | モザンビーク:UNAC、Justica Ambiental-JA(環境正義)、ADECRU(農村開発の ためのアカデミック・アクション)、ブラジル:ブラジル小農民運動/ヴィア・ カンペシーナ、日本:(特活)日本国際ボランティアセンター他、全73団体 |
2015.6.17 | プロサバンナ事業による形だけの公聴会~もう一つの操られた対話プロセス | UNAC、ADECRU、JA!、AAAJC(コミュニティへの司法支援協会)、カトリック・ナンプーラ大司教区・正義平和委員会、女性フォーラム、モザンビーク人権リーグ (LDH)、女性世界マーチ、リヴァニンゴ |
2016.2.19 | 「プロサバンナにノー!キャンペーン」は、プロサバンナの対話における不正を糾弾する | UNAC、ADECRU、JA!、LIVANINGO、人権リーグ、AAAJC:コミュティのための法的支援協会、女性フォーラム、世界女性マーチ |
2016.3.7 | WWFモザンビークとプロサバンナ事業のパートナーシップに対する非難声明 | UNAC、ADECRU、JA!、LIVANINGO、人権リーグ、世界女性マーチ、女性フォーラム |
2016.5.7 | 「プロサバンナにノー」キャンペーンによる合意形成と抵抗に関する会議 会議結果要約 |
UNAC、ADECRU、JA!、LIVANINGO、人権リーグ、世界女性マーチ、女性フォーラム※協力FIAN International、カトリック教会「ナンプーラ・ナカラ大司教区平和と正義委員会」 |
2016.8.29 | 3カ国市民社会によるプロサバンナ事業に関する共同抗議声明・公開質問 ~政府文書の公開を受けて~ | JVC他49団体+36団体賛同 |
2016.11.16 | プロサバンナ・マスタープランの見直しおよび公聴会プロセスの不正に関する緊急声明 | JVC他27団体 |
2017.2.17~3.24(JICAとの書簡往復) | 【JICA理事長宛 公開書簡】 | UNAC、ADECRU、JA!、Livaningo、人権リーグ、女性フォーラム、世界女性マーチ、カトリック教会・ナンプーラ大司教区「正義と平和委員会」、カトリック教会・ナカラ司教区「正義と平和委員会」 |
2018.3.22 | 河野大臣宛書簡 | UNAC、ADECRU、JA!、Livaningo、人権リーグ、女性フォーラム・世界女性マーチ、カトリック教会・ナンプーラ大司教区「正義と平和委員会」、カトリック教会・ナカラ司教区「正義と平和委員会」 |
2018.5.21 | 「ナカラ回廊農業開発マスタープラン策定支援プロジェクトに対する環境社会配慮ガイドラインに基づく異議申立に係る調査報告書」に対する申立人からの意見書 | 異議申立人(現地住民ら11名)※代理人らが英訳をして提出 |
日付 | 声明タイトル | 発出元 |
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2013.4.29 | モザンビーク北部のProSAVANA事業マスタープランは想定されうる最悪のシナリオを露呈した~市民社会組織は大規模土地収奪に道を拓く秘密計画に警告を発する~ | 国際NGO25団体 |
2014.4 | モザンビークの現状に関する国際声明 | FIAN International、GRAIN, International、La Via Campesina, International+賛同5団体 |
2016.1.27 | ブラジル市民社会宣言文「JICA契約企業MAJOL社関係者による暴言と脅威に曝されたUNAC出席者への連帯宣言【仮訳】」 | ブラジルの市民団体29団体 |
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