東エルサレムにおける女性の生計向上とエンパワメント事業
パレスチナの女性は占領の抑圧だけでなく、「家父長制による男性優位のアラブ社会」というストレスを抱えた男性からの暴力、家庭外の活動に対する制約などの困難に直面しています。特に東エルサレムのシルワン地区およびアットゥーリ地区では地理的・歴史的背景や閉鎖的な部族社会という点から、女性たちはさらに厳しい状況におかれています。
しかしながら、女性たちは暴力を公にできず、自身の権利を認識したり経済活動へ参加したりする機会もなく、現状を受け入れざるを得ません。
(活動地シルワン・アットゥーリ地区の様子(東エルサレム))
そこで本事業では、女性や青少年たちの社会的経済的自立を目指し、パレスチナの女性支援を行う現地NGOのAWC(Al-Thouri Silwan Women's Center)とともに、収入手段を得るための職業技術訓練と、自立に必要なライフスキルを身につける研修を実施しています。
また、事業終了後も女性や青少年たちが社会的経済的自立に向けた行動が継続できるよう、地域のサポート環境の整備にも取り組んでいます。
AWCは2007年にパレスチナ女性たちによって設立され、女性と子どもを主な対象として、アットゥーリ地区(別名:アブ=トゥール)とシルワン地区を中心に活動をしています。
パレスチナ政府にNGO登録されており、代表を含めて5名のスタッフ(全員女性)、その他パートタイマーやボランティアにより支えられている地域に根付いた団体です。
女性に対する一切の差別がない社会を実現するため、女性の権利と安全性の改善、女性の決定権とリーダーシップ、経済力の向上、女性の社会参画の推進などに取り組んでいます。
(AWCのスタッフたち)
事業地 | 東エルサレム、シルワン地区(Wadi Hilwehを含む人口約19,900人)/アットゥーリ地区(人口約12,430人) |
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活動 実績 |
・職業技術訓練を受けた女性:231人 ・職業技術訓練を受けた青少年:147人 ・ビジネススキル研修を受けた女性:延べ448人 ・ビジネスを立ち上げた・または計画している女性:125人 ・ソフトスキル/ライフスキル研修を受けた女性:延べ881人 ・ソフトスキル/ライフスキル研修を受けた青少年:延べ917人 ・ソフトスキル研修を受けた男性:96人 (2024年11月現在) |
期間 | 2021年2月〜 |
分野 | ジェンダー・平等、参加型開発 |
活動 目的 |
対象地域の女性や青少年たちの社会的経済的自立を目指し、収入手段を得るための職業技術訓練やビジネススキル研修を実施すると共に、自立に必要なライフスキルを身につける研修を行います。また、女性や青少年が主体的に行動を起こし、継続できるよう、地域における意識や理解の向上も目的としています。 |
(1)職業技術訓練
AWCの調査に基づき、地域の女性たちからの要望や市場の需要が多いものを技術訓練の研修内容として選定しました。また、店舗を構えなくても小規模で商売ができるという視点もあわせた結果、料理コース(パン・焼き菓子作り、チョコレート作り、フルーツ彫刻、栄養とカロリー計算)と美容コース(メイクアップ、ヘアカット・カラリング・アレンジメント、ネイルアート)の二つのコースを設定。各参加者の進捗を記録し、フォローアップを行うことで知識や技術の定着を図ります。
(※2022年までは「洋裁・ファッションデザイン」「石鹸、キャンドル作り」も実施しました。)
(2)ビジネススキル研修
自身でビジネスを立ち上げることを念頭に置き、事業のマネジメントや予算管理などの研修を実施します。また、現地では路上やバザーでの販売、SNSを通じた個人での商売も盛んなことから、戦略的に売り上げを向上できるよう、研修参加者個人個人のビジョンにあわせた広報の研修もあわせて実施します。
(※ここでいうビジネスとは、会社を興すといったことではなく、小規模に商売をするということを指しています)
(3)ライフスキル研修
習得した技術や知識を活用して、社会経済的自立に向けた行動を主体的に取れるようになるため、問題解決、ストレスへの対処、効果的コミュニケーション、自己認識など、ライフスキルを身につける研修を行います。
(※世界保健機関(WHO)はライフスキルを「日常生活の中で生じるさまざまな問題や要素に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な心理社会的能力」と定義しています。)
職業訓練を通じて習得した技術を使って実際に収入を得る体験をするため、地域でのバザーの開催および外部のバザーへの出展を行います。その時に商品の売れ行きや購入者の意見などを集約し、商品の改善につなげる振り返りのセッションを実施します。また、職種を超えて自分の成果や得た経験・反省などについて、お互いに情報共有する機会もつくります。それにより、参加者はお互いの経験からも学びあうことができます。
他地域ですでに小規模ビジネスを立ち上げて成功している女性を訪問し、事業の様子を視察するだけでなく、立ち上げまでの経緯、困難をどう乗り越えてきたかなどの経験談を聞き、質疑応答や意見交換を行います。視察を通じて、研修参加者がビジネスを始めるにあたっての具体的なイメージ作りや、事業を始めた参加者のノウハウ獲得を目指します。
(※本事業は、外務省の日本NGO連携無償資金協力にて実施しています。)
シルワン・アットゥーリは、1948年にイスラエルが建国を宣言した際に多くの避難民が流入した地区で、東エルサレムの中でも貧困層が多く、イスラエルによる家屋破壊や土地収奪が頻発しています。こうした占領に加え、パレスチナ社会の伝統的な慣習によって、女性の選択肢がせばめられています。
社会・経済的なエンパワメントを目的に、美容や料理などの職業技術訓練を実施し、成人女性115人、青少年女子51人が参加。うち77%にあたる127人が修了し、小ビジネスを立ち上げた、あるいは計画している女性は参加者の43人にのぼりました。
(お菓子づくりの職業訓練の様子)
職業訓練を受けても、実際に就職した開業したりすることは簡単ではありません。そのため、小規模ビジネスの立ち上げをサポートするために、資金の管理、税金、マーケティングなどのガイダンスとしてのブックレット(500部)を作成しました。
また、職業訓練の受講者が参加するSNSのグループをつくり、情報交換や相談、アドバイスが行われる場として活用されています。こうした取り組みによって、地域の女性たちの社会的・経済的自立を多方面から支援しています。
(ビジネス研修でのグループワークの様子)
女性が単独で外出することが難しい保守的な家庭が多い活動地ですが、研修を修了し一歩を踏み出した女性たちのクチコミなどから地域に輪が広がり、参加希望者は年々増えています。参加者の意欲は非常に高く、質問が活発に飛び交い、研修終了後も続く講師や参加者同士のつながりが生まれています。2023年10月以降、東エルサレムの政治経済状況は非常に厳しく、女性は家庭でさまざまな責任を負っていますが、その中でも一部の女性はビジネスを立ち上げたり、準備を進めています。
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