戦勝パレードとお葬式
南コルドファン州での武力紛争が始まって、早くも3年が経とうとしています。
この間、国連やアフリカ連合をはじめとする国際社会は手をこまねいて見ていたわけではなく、スーダン政府と反政府勢力とに停戦を求め、両者の交渉を仲介してきました。しかし、隣国エチオピアの首都アディスアババで何度か行われた交渉は、そのたびに頓挫。4月には、アフリカ連合の仲介団が「4月末までに停戦交渉をまとめる」と強い意気込みで交渉に臨みましたが、結局は政府と反政府勢力とが互いに相手を非難する展開となり、4月30日、またしても交渉は中断しました。
交渉が中断したちょうどその日、私はいつものようにカドグリ駐在スタッフと電話での業務連絡を取っていました。
「あれ、今どこにいるんだい?事務所の中じゃないよね」
スタッフに電話がつながりましたが、いつになく、周囲がざわついています。市場の中にでもいるのでしょうか?
「ちょっ、ちょっと待ってください」
と言うスタッフの電話口から、大きな音でサイレンが聞こえてきます。警察車両、それとも救急車でしょうか。あたりは混乱しているようです。交通事故でもあったのでしょうか。
「あ、あとでまた電話します」
心配しながら待っていると、5分ほどして携帯電話が鳴りました。
「何があったんだ?」
「政府軍の支援部隊が、今カドグリに入ってきたんです」
「えっ?」
そう言えば数日前の新聞で、ハルツームのあちこちで交通を遮断しながら、政府軍の大増援部隊が南に向かって出発していったという記事を読んだのを思い出しました。行き先は分かりませんでしたが、やはりカドグリだったか...。
JVCスタッフがクルマで移動していると、いきなり警察車両が現れて道路を封鎖。走行中、駐車中のクルマを追い出して部隊の通り道が作られました。そして、長い車列を組んだ部隊はメインストリートを威風堂々とカドグリに入ってきたそうです。
昨年12月、政府軍は「この乾季(12月~6月)に反政府軍の活動を一掃する」という大号令を発し、南北コルドファン州、ダルフール地方に次々に増援部隊を派遣してきました。ダルフールでは2月から各地で戦闘が激化、新たに18万人もの避難民が生み出されています。これは、ダルフール人道危機が騒がれた2004以来、最悪の数字です。
そして今、カドグリにも鳴り物入りで部隊が入ってきました。沿道では、手を振って歓迎している人もいます。部隊が住民の安全を守ってくれると思っているのでしょうか。
「カドグリの防衛をするために来たんじゃないだろうさ。いずれ、反政府軍の拠点になっている周辺の丘陵地に展開して、掃討作戦を始めるんだろう」 事情通の知り合いは、そんなふうに言っています。
半月後、「掃討作戦」が始まりました。政府軍の陣営から丘陵地帯に向けて長距離砲が発射されると、それを合図にしたかのように、政府軍の攻撃が開始されたのです。戦闘はカドグリから10キロ、20キロほど離れた場所で行われていますが、市内まで砲声が響くこともあります。
西側の丘陵地には、政府軍の爆撃機が飛んできました。投下した爆弾が山の中で炸裂する様子も、時には市内から見ることができます。
そんな中、カドグリの町は平穏を保っています。今回、反政府軍からの砲撃はありません。私たちもいつも通りに活動を進めています。
JVCスタッフは、ティロ避難民住居に足を運びました。井戸管理委員会の話し合いが近々行われることになっていたので、その確認のために訪れたのです。
ウォーターヤードでは、井戸管理委員会のアフマドさんが給水塔の下の椅子に腰掛けていました。
「こんにちは」
「やあ、久しぶりだね」
「そろそろ、井戸管理委員会の話し合いが持たれると思いますが、日にちは決まりましたか?」
「ああ、そのことか...」
ちょっと曇った顔で、アフマドさんは言いました。
「すまないけど、今週はそれどころじゃないんだ。ここの住居に住んでいる家族のひとりが、亡くなったんだよ」
「えっ、どうしたんですか?病気ですか、事故ですか?」
「知っているだろう、この前の事件」
それは、カドグリ郊外の政府軍の詰所で起きた事件でした。政府軍が攻勢を強める中、反政府軍は少人数の詰所に急襲を仕掛け、5人の兵士の命と武器弾薬を奪っていったのです。そのひとりが、避難民住居の住民の家族でした。
「だから、今週は葬式の準備とか、みんな忙しいんだ...悪いけど、話し合いはまたその後だよ」
5月19日、政府軍はカドグリの東20キロ、反政府軍の拠点につながる要衝を奪還したと発表。カドグリでは広場から軍の駐屯地に向けて大がかりな戦勝パレードが行われました。政府職員や一般市民、歌や踊りのグループも動員されています。
戦勝パレードは、新聞でも取り上げられました。政府軍の幹部は「このまま進軍を続ける」と意気軒高です。
しかし、パレードの陰で行われているいくつものお葬式は、決して報道されることはありません。
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