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スーダン

ウシと菜園~ウォーターヤードの暑い日々~

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カドグリの郊外、東に5キロほどにティロ避難民向け住居(以下、避難民住居)があります。
紛争によって村を追われた230家族が、再定住の地として昨年7月に入居。
水を汲み、畑を耕し、木材や藁を集めて家を増築し、生活を築いてきました。

私たちは、昨年11月にウォーターヤード(電動ポンプ汲み上げ式井戸による給水施設)を支援、その様子はこの「現地便り」でもご紹介しました。
そして1月からは、食生活改善と収入向上のために、共同菜園での野菜作りも支援しています。

 今回から何回かにわたっては、ウォーターヤードのその後と、共同菜園についてお伝えします。
話は、いったん2月下旬までさかのぼります。

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壁ぎわに座った共同菜園メンバーの女性たちを前に、井戸管理委員会のブシャラさんが言いました。
避難民住居での住民同士の話し合いは木陰での「青空会議」が普通なのですが、今日は珍しく診療所のスペースをお借りして、部屋の中で話し合いが行われています。

集まっているのは、井戸管理委員会、それに共同菜園の参加メンバー。
菜園メンバーは大半が女性です。
そしてウムダ(住民リーダー)のバクリさん。総勢25人になります。
JVCスタッフも立ち会っています。

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菜園作りの活動は、1月にJVCの研修に参加し、農具と種子の支援を受けた65家族によって始まりました。
自宅の裏庭に畑を作った人もいますが、多くの参加者は、ウォーターヤードに隣接した共同菜園の畑地を分け合っています。
もちろん、ここに畑を作ればウォーターヤードから灌漑用水を引くことができると、誰もが考えています。

しかし、井戸管理委員会の立場からすると、井戸水を電動ポンプで汲み上げるにはディーゼル燃料が必要です。
このおカネを分担して欲しい、というのがブシャラさんの要請なのです。

「分かった。では、1週間にひとり当たり3スーダンポンド(以下ポンド)を払うのはどうだろう?なあ、みんな」
菜園メンバーのリーダー格、ジャベルさんは、そういって他のメンバーを見渡しました。
「ワタシは、払えるわ」
「えっ、ちょっと待って。週に3ポンドだと...払えないかも」
5人のメンバーが、口々に「払えない」と言い始めました。

それを聞いて、クワさんが口を開きました。男性の菜園メンバーです。
「ウォーターヤードの水は個人単位で使うわけではなく、ホースで一度に菜園全体に引くわけだ。
だったら、菜園メンバーの中に少しでも『払えない人』がいたら、水はストップしてしまうのか?
そしたら野菜は枯れてしまうよ。
だったら、ウォーターヤードなんかやめて、手間はかかるけど燃料代のかからない、手押しポンプの方がいいじゃないか」

クワさんの発言を聞いて、みな黙ってしまいました。

ジャベルさんが、その場をまとめるように言いました。
「いろいろ意見があるけど、ひとり1週3ポンドを払うということで、いいじゃないか。
明日、菜園グループで話し合いを持って、おカネもその時に集めるよ」

みな、あまり納得顔ではありません。
でも、それ以上の議論にはなりませんでした。

「ところで、住民全員が払う分担金は、集まったのかな?」
住民リーダーのバクリさんが、井戸管理委員会のブシャラさんに尋ねました。
以前の話し合いでは、燃料費をまかなうために230戸の全世帯が1ヶ月2ポンドずつ払うことに決まっていたのです。

ブシャラさんに代わって、アフマドさんが答えました。
どうやら彼が会計担当になっているようです。
「集金係は全部で10人以上いるのに、1月分のおカネを集めてきたのは7人だけで、全部で197ポンド。2月になってからは誰も集金してきていません」

230世帯が2ポンドずつ払えば全部で460ポンドですから、半分も回収できていないことになります。
バタリさんの表情が、ちょっと変わりました。
「分担金を払うのは、みんなで決めたことだ。
どうして、そんなに払わない人が多いのか。
誰が払っていないのか、ちゃんと調べるように。
2月分も集金を急がなくちゃいかん」

分担金は、ウォーターヤードが動き始めた去年11月に決まったことです。
とりあえず2月までは分担金を集金して、その後については家畜給水の収入がどのくらいになるのかを見極めて考えよう、ということになっていました。

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「家畜のカネはどうなっているんだ?」
誰かが思いついたように、そう尋ねました。
そうです、2月に入って、毎日たくさんのウシがウォーターヤードに水を飲みに来ているのです。

ウォーターヤード建設当時は、果たして乾季になってから牧畜民がウシを連れて来るのかどうか、それによって給水の利用料収入があるのかどうか、私たちは疑心暗鬼でした。
しかしフタを開けてみれば、毎日ウシが押し寄せてくるのです。

「これまでに5人の牧畜民から利用の申し込みがあった。
合計でウシ395頭だ」
ブシャラさんがそう説明して、
「まだ入金はないけれど、料金を受け取ったらみんなに現金を見せて、そのあと銀行口座に預け入れる」
と約束しました。

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こうして、話し合いは終わりました。
菜園メンバーはポンプの燃料代として1人1週3ポンドを支払うことになり、菜園に灌漑用水を送るための長いホースが、JVCの支援でウォーターヤードに取り付けられました。
これで、菜園にはスムースに灌漑用水が送られるはずです。
これにて一件落着でしょうか?

約2週間が過ぎた3月上旬、避難民住居で菜園メンバーと顔を合わせたJVCスタッフは、そう簡単には物事が進まないのを思い知らされました。
「あの分担金は、その後どうなりましたか?」
「あ、あれかい?あれなら、誰ひとりとして払っちゃいないよ」
「えっ...ひとりも、ですか?」
「だって、毎日ウシが何百頭も来てるんだよ。
どうしてアタシたちからカネを集めなきゃならないんだい?」

話し合いの時には、住民全員が支払う分担金についても、2月分を集める話が出ていました。

顔馴染みの「集金係」の主婦に尋ねてみました。
「集金?...何言ってるんだい。
ウシがあんなに来てたら、集めようったって、誰も払わないよ」

話し合いで決まったことなど、全くどこ吹く風です。
いや、もともと決め方に問題があったと言えば、そうなのですが...
みんな、毎日毎日ウシの数が増えているのをしっかり見ているのです。

それならそうと、家畜給水の料金は集まっているのでしょうか?
ウォーターヤードでは、アフマドさんが管理人として給水塔の下に座っていました。
「ウシの持ち主から、水の利用料は集まっていますか?」

アフマドさんは首を振りながら、
「ひとりだけだよ」

2月に家畜給水の契約を結んだウシの持ち主5人のうち、たった1人からしか回収できていないというのです。
アフマドさんが言うには、ウシを連れてウォーターヤードにやって来るのは若者や子供であって、持ち主は契約をしたが最後、姿も現さないそうです。
3月に入って更に多くの家畜の持ち主と契約しましたが、月末払いにしているので、これまた回収は先の話です。

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「こりゃ、下手したらウシに『飲み逃げ』されるんじゃないのか?」
ウシの群れを眺めながら、JVCスタッフのタイーブは横にいるスタッフのアドランにそう言いました。
確かにその危険性がある、とアドランも思います。

分担金が思うように集まらず、家畜からの給水利用料もなかなか回収できない。
一方で、毎日400頭を超えるウシに給水するため燃料費は間違いなく増えています。
「アドラン、確か以前、水公社(水道局)の局長が『住民によるウォーターヤード運営は必ず失敗する』って、自信を持って言ってたよな」
「そうだ。『だから運営は水公社に任せなさい』とも言っていた」
「このままじゃ、ここも失敗して、水公社に運営を取られちまうんじゃないか?」

(続く)


【おことわり】

JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。

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