JVC一座の巡業(1)
ワゴン車に音響機材を積み込んで、JVCスタッフは幹線道路を北に向かいました。
行き先は、カドグリの町から20キロほど離れたトマ集落。今日はそこで、あるイベントを行うのです。そのために、クルマの中には役者さんや音響業者の人たちも乗り込んで、わいわいと賑やかです。
イベントとは、劇の上演を通じて、村の人たちに井戸の保守管理の大切さを理解してもらおうというもの。私たちにとっては初めての試みです。
JVCは今年、国内避難民が新しく住み始めた地区を中心に、生活に必要な水を供給するための井戸を掘削、設置してきました。また、故障したまま長らく放置されていた井戸の改修も行いました。いずれも手押しポンプ型の井戸で、新しく設置したものが7本、改修は10本にのぼります。
しかし、大切なことは井戸の設置よりも、それが何年間にもわたって稼働し、使い続けられることです。残念ながら、南コルドファン州には設置して2、3年も経たずに故障し、修理されずに放置されてしまう井戸が数多くあります。この「現地便り」の記事でも、そうした事例をご紹介してきました。
井戸の新設は国連やNGOが行うことが多いのですが、そうした援助団体の活動がいつまでも続くわけではありません。完成した井戸は住民に引き渡され、住民が自分たちの手で保守や修繕をしていかなくてはならないのです。
地方行政がやってくれるかといえば、そんなことはありません。首都ハルツームのような都市であれば、住民は料金を支払って公共の水道サービス(蛇口をひねれば水が出てくる)を受けていますが、私たちが活動しているような地方の村落部に水道サービスはありません。井戸の管理運営は村人に任されています。
では、どうして村人による運営がうまくいかず、井戸が放置されるケースが後を絶たないのでしょうか。いくつもの要因がありそうですが、村人自身の意識が大きく関係していることは確かです。
今回のイベントは、そうした村人の意識に、少しばかり働きかけてみようというものです。
幹線道路を外れてぬかるんだ道を集落に入っていくと、風変わりな一行を乗せたワゴン車に、村人がみんなこちらを見ています。会場となる小学校の校庭に到着して機材を下ろし始めると、さっそく子どもたちが集まってきました。
「何が始まるんだろう...」
そんな感じで、遠巻きに眺めています。
(おめかしして集まった子どもたち)
「やあやあ、ご苦労さまだね」
集落のシエハ(住民リーダー)がやってきて、JVCスタッフのアドランに声を掛けました。
シエハには、今回のイベントのことは事前に伝えてあります。
「シエハ、村の人たちにイベントのことは伝えてもらえましたか」
「もちろんだ。きっと、たくさん集まるぞ」
そんな話をしていると、機材の設営をしている音響業者の男性が振り向いて言いました。
「心配しなさんな。音楽が始まったら、すぐに人が集まってくるから」
実は予算の関係上、もともと音響機材を借りる予定はありませんでした。しかし「音を出せば、村の人がみんな集まるぞ」というアドバイスを多く受けて、半信半疑ながら借りてみたのです。音響業者さんは、スピーカーやアンプだけでなく、生演奏用のキーボードも持ち込んできました。
準備ができたらしく、キーボードでの演奏が始まりました。あれ、演奏しているのは今まで設営をしていた男性です。音響業者の人かと思ったら、ミュージシャンだったのですね。演奏に合わせて、歌も始まりました。役者さんのひとりが歌手もやるようです。アーティスト集団です。
みるみるうちに、人が湧き上がるように集まってきました。男性、女性、子どもからお年寄りまで、みんな楽しそうな表情です。女性たちは外出用の色鮮やかなトブ(一枚布の衣装)に身を包み、子どもたちも今日は「おめかし」。まるで、集落の一大行事です。人数はあっという間に百人、二百人になり、校舎の前で歌っている歌手の周りを半円状にぐるりと取り囲んでいます。
(挨拶をするアドラン)
音楽が鳴り終わりました。さあ開会です。
まずはシエハの挨拶です。
「この日本の団体は、これまでトマ集落で手押しポンプ井戸の補修を支援してくれた。みんなも知っていると思う。今日は、井戸の使い方や修理について、何やら面白くてためになるものを見せてくれるそうだ」
続いて、大勢の人を前にいつもより緊張した面持ちのアドランが挨拶しました。
そしていよいよ、役者さんたちによる劇が始まります。
(続く)
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