菜園づくりで、子どもを大学に!?
5万人もの避難民が生活を送る南コルドファン州の州都カドグリの周辺で、JVCは避難民や地元住民とともに菜園づくりの活動を続けてきました。
子どもたちがルッコラやモロヘイヤ、オクラなどの野菜を食べて栄養を付け、家族で食べきれない分は市場で売って家計を助けようという取り組みです。
とはいっても、菜園づくりの活動がどの地区でも順調に進んでいるわけではありません。この「現地便り」でお馴染みのティロ避難民住宅の人々は、どちらかと言えば菜園づくりには関心が薄いようです。JVCが呼び掛けてもあまり反応がありません。
「毎日水をやらなくちゃいけないんでしょ。大変じゃないの?」
「野菜なんか作らなくたって、薪を集めて市場で売ればおカネになるわよ」
そんな声をよく聞きます。避難民住宅の大半の人々はブラム郡(カドグリ南方に広がる丘陵地帯)から戦火を逃れてきた人たちですが、ブラム郡ではもともと野菜づくりは盛んではありませんでした。
(アサマ集落では手押し車で井戸から菜園に水を運ぶ光景があちこちで見られる)
「みんな野菜作りの経験がないので、尻込みしていると思うんですけど。」
JVCカドグリ事務所のスタッフ、サラは、ハルツーム事務所のモナに掛けてきた電話でそんなふうに報告しました。
「そうね、みんなに菜園づくりの良さを分かってもらわないといけないわね」
モナは電話口で考えていましたが、
「そうだ、サラ、識字教室には毎日たくさんの人が集まってくるのよね」
「えっ、そうですけど・・菜園と何か関係があるんですか?」
避難民住居で始まった識字教室には、女性を中心に30人程度の参加があります。
「それだけ人が集まるのだったら、そこで菜園づくりの良さについて話をしてみたらどうかしら」
「あっ、そういうことですか・・でも、誰が話をするんですか?どこかから講師を呼ばなくちゃいけないんじゃ・・」
「そんな必要はないでしょ、サラ」
モナにはアイデアがあるようです。
「菜園がうまくいっている地区から、野菜を熱心に育てている人を連れてきて、体験談を話してもらったらどうかしら。そうね・・アサマ集落の人なんかいいんじゃない」
アサマ集落では昨年JVCが支援を行い、今も菜園づくりが盛んに行われています。
「はい、アサマだったらいいかも知れません」
「サラ、アサマで誰か話をしてくれそうな人を知ってる?」
サラは少し間を置いてから、
「ちょっと思い当たる人がいます。すぐに頼んでみますね」
(識字教室の参加者に体験談を話すファトゥマさん)
それから数日後、ティロ避難民住宅です。レンガ造りの家々から少し離れて、幼稚園の簡易校舎が建っています。幼稚園は昼間のうちに終わり、西日を受けてガランとした教室には、トブ(スーダンで一般的な1枚布の着衣)を身に着けた女性たちが三々五々集まってきました。いや、男性もほんの2、3人混ざっています。識字教室の時間です。
JVCの赤いクルマが到着しました。サラと一緒に降りてきたのは、青地に白の文様のトブをまとった女性です。
識字教室の参加者がそろったのを見計らって、サラは少し時間をもらい、前に立って話し始めました。
「JVCが菜園づくりの活動をしているのは皆さんもご存知だと思います。今日は、アサマ集落で去年から菜園づくりに取り組んでいる人に来ていただいて、その体験談をご紹介したいと思います。ファトゥマさん、どうぞ」
サラに促されるとファトゥマさんは教室の前に進み出て、話を始めました。
「アサマから来ました、ファトゥマです。去年、私たちはムナザマ(※)から種と手押し車を支援してもらい、野菜作りを始めました」
※「ムナザマ」はアラビア語で「団体」の意ですが、スーダンでは「援助団体」の意味でよく使われます。ここではJVCのことを指しています。
「最初は、井戸から水を運ぶのも大変だし、野菜を育てるのは難しいかと思いましたが、慣れてくるとそんなに難しいわけでもないんです。ジルジル(ルッコラ)の畑一枚なら、誰の手助けも借りずひとりで育てることができて、種まきから4週間で収穫できます。収穫が始まったら毎週100スーダンポンドの収入になりますよ」
ファトゥマさんは、収穫する時の身振りを混ぜながら話しています。
「フドラ(モロヘイヤ)を収穫したら、1束3スーダンポンドで売れます。朝のうちに畑で10束分を集めたら、市場に行って30スーダンポンドが稼げます。これだけで一日に必要なおカネが足りてしまいますよね。菜園は、薪拾いよりもずっと良い収入になりますよ」
気が付くと、みんな身を乗り出すように話を聞いています。
(アサマ集落にあるファトゥマさんの菜園。女性3人の左がサラ、 中央がファトゥマさん) |
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「だから、菜園づくりは私の生活の中でとても大切。野菜を売ったおカネで毎日の買い物ができるし、子どもの学費、学校での昼ごはん代にもなる。いま二人の息子が大学に行っていますが、学費は野菜を売ったおカネから送っています」
この話には、サラも驚きました。野菜づくりで息子を大学に?!
そこまで稼げるとは、活動を計画した私たちにとっても全くの想定外です。
(話が終わって、参加者からの意見を聞く)
話を聞いていた女性たちからは、すぐに反応がありました。
「菜園が大事なのは分かっているけど、自分たちは避難民だから土地がないのよ。去年、菜園を作ったら、地元のリーダーから『その土地は使ってはダメだ』と言われたのよ」
「そんなことがあったっけ?どこの場所に菜園を作ったの?」
「ほら、あのウォーターヤードの脇よ」
JVCが設置したウォーターヤードに隣接して作った菜園が、地元住民のリーダーには快く思われなかったようです。避難民住宅の土地はすべて地元の地域社会から提供されており、普段はもめごとが起きることもありませんが、小さな問題は時々起きているようです。
「じゃあ、菜園を家の庭に作ったらどうなるの?それなら誰も文句が言えないんじゃない」
ファトゥマさんの体験談を終えて、サラがハルツーム事務所のモナに電話で報告してきました。
「それで、サラ、そのあとはどういう話になったの?」
「家の庭先にどんどん菜園を作ろうという話になりました。みんな『自分も始めたい』って口々に言っていました」
「すごいわね。ファトゥマさんに来てもらって大成功だったじゃない」
「はい、本当に。さっそく、来週には希望者を集めて研修を始めたいと思います」
【おことわり】 JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。なお、文中に登場する住民のお名前には仮名を使わせていただいております。 |
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