REPORT

南スーダン

南スーダンの首都、ジュバを訪問して(3) -自衛隊が建設した道路-

前回から続く)

サイモン工場長を中心に南スーダン人の整備士・スタッフによって運営される車両整備工場。その所有権を持っているのは、実は「南スーダン教会評議会」という教会組織です。私たちJVCとも十年来の友人になります。
事務所を訪問すると、事務局のレッチャさんが
「おいおい、いったい何年ぶりなんだ?」
とおどけたように言って歓迎してくれました。
互いの近況報告をしながら、話はどうしても現在の南スーダン情勢に行き着きます。教会評議会は、今回の内戦において戦闘当事者の双方に対して和解を促す働きかけも行っています。

「とにかく、この戦争の被害者は我々エクアトリア人だ」
レッチャさんは、今回の内戦は大統領派のディンカと反大統領派のヌエルという、国の中央から東北部にかけて住んでいる民族グループ同士の戦争だと言います。その説に従えば、首都ジュバを含む国の南部のエクトリア地方に住む人々は、自分たちには関係のない戦争のおかげでとんでもない被害を受けていることになります。
「戦火を逃れ、家畜の群れを連れた大量のディンカが南下してエクアトリア地方に避難してきている。いったいどうなると思う?」
ディンカの生活は半農半牧、所有するウシの頭数は半端ではありません。他方でエクアトリアの人々の生活は農耕が中心です。
「ウシが畑を荒らしてあちこちで大変な騒ぎだ」
もちろん、ディンカの人々こそ被害者だとも言えます。内戦の恐怖から安全な場所を求めて避難しても、移動先で今度は地元の人たちとの争いに巻き込まれているのです。和平が実現しない限り、次々に新しい紛争の火種が出てきます。

「レッチャさん、ジュバの町では衝突は起きていないのですか?」
少し話題を変えてみました。
「見て分かる通り、ジュバは大丈夫さ。ただし」
「ただし?」
「内戦が起きた時に襲撃されたヌエルの人たちは、今もキャンプから家に帰れないでいるよ」
キャンプというのは、国連がジュバ郊外に設置したPOC(Protection of Civilians)と呼ばれる市民保護施設です。治安が一定の回復を見せているジュバにおいても、ヌエルの人たちは襲撃を恐れて自宅に帰ることができません。

ホテルに戻る道すがら町の様子を見ていると、レッチャさんが言った通りに落ち着いています。夜間の犯罪は増加しているものの、昼間であれば多くのクルマやバイク、そして主婦や小中学生、小さな子どもたちが行きかい、そこに普通の市民生活があることを感じさせます。
私が泊まっているホテルは、政府庁舎が建ち並ぶ一角からほど近いナバリ地区、アメリカ大使館のすぐ向かい側にあります。ジュバの町はナイル川左岸の高台の上にあり、この高台から北側に向かって緩やかに下がっていく斜面がナバリ地区です。
数年前のこの地区の様子をよく覚えていますが、今回、ホテルの前の道路が様変わりしているのには驚きました。凹凸が激しかった面影もなく、幅が広がり整備された緩やかな坂が続いています。交通量が増えたためか、道路に面してレストランや商店もオープンして賑わいも出てきました。
実はこの道路が、自衛隊が整備したナバリ道路です。日本の政府開発援助で実施していた道路整備に自衛隊が協力し、ODAと自衛隊が連携した事例として関係者の間では有名になった道路です。



サイモン工場長(左)と部品調達担当ビタレさん(右))

翌日、整備工場を訪れると、交換部品調達担当のビタレさんに会うことができました。模造品だらけのジュバの町で純正部品を探し回るのに忙しく、整備工場で彼に会えるチャンスは少ないのです。
「おお、いつジュバに来たんだ?元気でやってるか?」
ビタレさんも、相変わらずの太鼓腹で元気そうです。
「どこに泊まってるんだ」
「あそこだよ、ほら、アメリカ大使館の向かいのホテル」
「なんだ、ウチのすぐ近くじゃないか」
そうでした。彼の家は、ナバリ道路を下ったすぐ脇なのです。私も何年か前に訪問したことがあります。
「ビタレ、あの道路、全然変わってたんで驚いたよ」
「おお、そうだ、知っているか?あれ、日本の軍隊が工事したんだぞ。グッド・ジョブだ」

ビタレさんが力を込めて「グッド・ジョブ」と言うのを聞いて、私はある新聞社の取材を思い出しました。「ジュバでの自衛隊の活動について、地元住民はどう感じているのでしょうか?」という質問を受けたことがあるからです。
デコボコだらけの道路が整備されれば、地元の住民にとってうれしいのは当たり前。自衛隊に感謝するのは自然なことです。でも、それが自衛隊でなくてどこかの建設会社であっても、住民にとっては良かったのではないでしょうか。実際、ジュバ市内では数々の道路整備が建設会社によって実施されています。あの工事が「自衛隊でなくてはできなかった」わけではないでしょう。ナバリ道路は、住宅地にあるごく普通の生活道路。費用対効果を考えるなら、むしろ自衛隊がやることのほうが不自然です。

ビタレさんの家族の近況などを聞きながらと整備工場の中を歩いていくと、作業服姿の若者たちがエンジン分解修理をしていました。傍らではベテランの整備士が見守っています。
「今年の研修生だ」
とビタレさん。
整備工場がこれだけの「経営危機」にあっても、職業訓練は続いているのです。

続く

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「スーダン日記」執筆者、今井は1年に3回程度のペースで日本に一時帰国しています。その機会に、皆さんのご近所、学校、サークルの集まりなどに今井を呼んで、「出前報告会」はいかがでしょうか。セミナーや学校の授業からお茶を飲みながらの懇談まで、スーダンの生活文化、紛争地での人道支援、「スーダン日記」に書き切れない活動のエピソードなどをお話しさせていただきます。日時や費用、また首都圏以外への出張についても、まずはご相談ください。

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