南スーダンの首都、ジュバを訪問して(4) -誰を「駆け付け警護」するのか?-
(前回から続く)
エンジン分解修理の練習をする研修生たちを見ていると、いつの間にか工場長のサイモンさんが後ろにやって来ています。
「今年の研修生は優秀だな。例年だったらエンジンの分解修理は1年の訓練期間の最後に行うんだが、今年は半年でもうここまで到達している」
工場長も、研修生の成長には満足そうです。
「今年の研修生は何人ですか?」
「15人だ」
JVCが運営していた当時に毎年20人程度を受け入れていた職業訓練は、2010年に工場が南スーダン人に引き継がれてからも継続されていました。しかし、内戦が起きて工場経営が難しくなった今でも継続されているのは驚きです。
(研修生たち(前列)後列は工場長を始め整備士・スタッフ)
その点を質問すると、
「どんな時でも、将来のために若い世代を育てるのが我々の役割だ」
工場長からは明確な答えが返ってきました。
「実習だけでなく、車両整備の基礎に関する講義だって継続しているぞ」
トタン板で仕切られた講義室を訪れると、10年近く前にJVCが持ち込んだ机と椅子、黒板がそのまま使われていました。非常勤ですが専任の講師もいます。
「でも、研修にかかる費用はどうやって工面しているんですか?」
それが、大きな疑問です。
「誰も支援をしてくれなければ、自分たちで稼ぐしかないだろう」
そう言ってサイモンさんが指さしたのは、整備工場の門の脇にあるトタン小屋です。
「幸いにも、この工場の隣はバス発着場で、たくさんの露店商が集まっている。露店商のための倉庫としてあの小屋を貸しているんだ」
なるほど、露店商らしき人たちが商品の衣料品や日用品を倉庫から運び出しているのが見えます。
「事務所の裏の給水塔からも収益を上げている」
「えっ、あの水って料金を取っているんですか?」
整備工場の給水塔に汲み上げた水を、周辺の屋台食堂で働く女性たちが汲みに来ているのは私も目にしていました。無料ではなく、有料販売だったのです。そうした収入を活用して、なんとか研修が続けられているのです。
(講義室では、JVC時代からの机や黒板がそのまま使われていた)
(この給水塔の水を販売している)
「この国で、ウチの職業訓練の卒業生たちが果たしている役割は大きいぞ」
ビタレさんが横から付け加えました。
「国連、国際機関、NGO。あちこちで、卒業生が活躍している」
「その通りだ。赤十字国際委員会の車両整備部門なんて、ウチの卒業生が何人いるんだ?」
サイモンさんがビタレさんに尋ねています。
「えーと、そうだな・・6人は働いているぞ。いや7人かな?」
その半数以上は、JVCが実施していた当時の卒業生のようです。
私は、空港で見た赤十字の大型輸送機を思い出しました。あれだけの物資を持ち込んでいるのですから、当然、援助を必要とする国内各地に輸送するため多くの車両が必要とされるはずです。それを裏で支える整備部門が、この職業訓練の卒業生たちによって担われています。
「だから、これからも続けなくてはいけない」
それが、サイモンさんの強い意志です。
「でも、この国がこんな状況になってしまっているのに、どうしてJVCは様子を見にもこなかったのか?」
ビタレさんが、彼にとって素朴な疑問を投げてきました。
「いや、本当に申し訳ない」
私は、日本では南スーダンはとても危険な場所だと考えられていること、日本政府が日本人NGOスタッフの渡航を厳しく制限していることなどを伝えました。日本のNGOにとって、南スーダンでの活動は非常にやりづらいものになっています。
「そう言えば、このまえ日本のどこかのNGOが南スーダンから撤退したって聞いたぞ」
この手の情報にかけては、ビタレさんは早耳です。
「どういうことなんだ?」
「日本では、南スーダンのことなんか気にも掛けていないんじゃないか」
私には、あまり返す言葉がありません・・。
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8月下旬、南スーダン政府と反政府勢力によって、ついに和平合意が署名されました。しかし、政府側は合意文書に関して様々な留保を付けています。一部の地域では戦闘も続いています。そして何よりも、いったん激しく敵対してしまった人々の和解は、これからの長い道のりです。
スーダンのJVC事務所。机の上の携帯電話がまた鳴り始めました。日本からです。
「駆け付け警護について、今井さんのブログの記事(「アフリカの紛争地から、集団的自衛権『駆け付け警護』を考える」2014年7月)を読ませていただきました。いま政府は、南スーダンでそれを実施しようとしていますが、あらためてコメントをお願いできますか?」
新聞社からの取材です。法案が通っても、まだ熱は冷めていません。私は、次のように答えました。
敵味方の識別が難しく、武装勢力と住民との区別も曖昧な紛争現場で『駆けつけ警護』が現実的ではないことは、ブログにも書いた通りです。
それよりも、日本が南スーダンの平和のためにすべきこと、できることは、外交面での働きかけを始め、もっと他にあるのではないでしょうか。いまだに避難生活を送る人々への人道支援、将来に向けた人材育成など国造りへの支援はどうなのでしょう。
現実には、日本政府は日本のNGOが南スーダンに入って支援活動をすることを規制しています。自衛隊以外の日本人が南スーダンに入れないようにして、いったい誰を「駆けつけ警護」するのでしょうか?
(了)
「スーダン日記」執筆者、今井は1年に3回程度のペースで日本に一時帰国しています。その機会に、皆さんのご近所、学校、サークルの集まりなどに今井を呼んで、「出前報告会」はいかがでしょうか。セミナーや学校の授業からお茶を飲みながらの懇談まで、スーダンの生活文化、紛争地での人道支援、「スーダン日記」に書き切れない活動のエピソードなどをお話しさせていただきます。日時や費用、また首都圏以外への出張についても、まずはご相談ください。
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