REPORT

スーダン

避難民住居の新設(4)入居者はどうやって選ぶ?

前回から続く)

JVCが新しく建設した100戸の避難民用住居。その入居者は、どうやって選んだのでしょうか? カドグリ周辺には何千家族もの避難民が住んでいると言われます。100家族を選ぶのは至難のワザ、のように思われます。

話はさかのぼって、工事が始まったあとの昨年6月。入居者選定方法についての会議が行われました。

                                                           
                                                                                   (会議は州政府庁舎の一室で行われた)

参加したのは州政府の担当者、避難民の出身地域の村長さんや郡役場の関係者、住居建設に協力している国連機関の職員、そしてJVCです。ちなみに、村長さんや郡役場の人たちも、村人と一緒にカドグリに避難してきているわけです。

まず、州政府の担当者が説明に立ちました。

「皆さんご承知のように、カドグリ周辺には数多くの避難民が住んでいます。5万人とも言われています。そのうち多くの人は、既に郊外に自分で家を作ったり、親戚と一緒に暮らしたりしています。けれども、自分で家を建てることができず、いまだに市内の空き家や、空き地にビニールシートや草で囲いを作って住んでいる人たちもいます」

みんな、うなずいています。

「こうした市内の避難民に対しては、家主や地主からの苦情も多くなっています。このままでは、互いの争いが起き、避難民の家族が追い出されてしまうかも知れません。ですから、そのようなことを避けるために避難民用の住居を今回100戸増設します。対象者は、郊外で既に自分の家を見つけた人ではなく、いま説明をしたような人たちです」

続いて、JVCスタッフのアドランが、より具体的な選定基準を説明しました。

「とにかく、いま現在自分の家がない人、これが大前提です。空き地や空き家に住んでいる人、親戚と同居しているけれども家族の人数に対してスペースが狭くて困っているような家族です」
参加者の多くはメモを取りながら聞いています。
「その中でも、女性と子どもだけの世帯、お年寄りだけの世帯、子どもの数が多い世帯などが優先されます」

「質問があるぞ」

ジャラビーヤ(白いガウン状になったスーダン男性の服装)を着た年配の方が手を挙げました。

                                       
                                                                               (ジャラビーヤ姿の村長さん(写真中央))

「家が『ある』とか『ない』とか言っているが、借家に住んでいる人はどういう扱いになるんだ?」
「ご質問ありがとうございます。皆さん、どう思いますか?」

アドランが会場に向かって尋ねると、みんな口々に意見を言い始めました。

「借家といったって家があるじゃないか。避難民住居に入居する必要はないだろう」
「いやいや、借家暮らしの避難民は、みんな高い家賃に苦労しているじゃないか」
「避難してきた頃は大家から『家賃は気にしなくていいですよ』なんて言われたのに、だんだん『家賃を払わないんだったら「出ていってくれ』と言われて、追い出されそうになっている人もいるぞ」
「避難してもう4年も経つからな、大家だってガマンできないだろう」
「じゃあどうするんだ?借家暮らしの人も避難民住居の対象者にするのか?」 議論が盛り上がってきました。

「要するに、その人がどれだけ困っているかだな。決まった収入があって借家の家賃が払えるような人は対象者から外せばよいと思うが、どうだろう」
あれれ、戦火に追われて故郷の村から逃げてきた避難民の中に「決まった収入がある人」なんているのか、と疑問に思う人がいるかも知れません。
もちろん大多数の避難民は、薪拾いや炭焼き、市場の物売りや家事手伝いなどで得る日々の収入で生活をしています。しかし、中には親戚からの定期的な仕送りを受けている人や、親戚のツテで定職を見つけた人もいるのです。
「定収入がないこと、これも選考基準にしましょう」
アドランが付け加えました。

続いて、選考の進め方が話し合われました。
まず、村長さんと郡役場の関係者が選考基準に基づいて候補となる100世帯の名簿を作成します。 そのうえで州政府が調査員を派遣、候補世帯を家庭訪問して、それぞれの家族が基準に合致しているかを確認します。

「皆さん、分かりましたか?質問はありませんか?」

州政府の担当者が問いかけると、みんな「分かった」とうなずいています。
「では、最後にひとつ質問します。候補者の名簿を作るときに、ある村長さんは、まず初めに自分の親戚の名前を書きました。皆さん、どう思いますか?」
「ダメに決まっているだろ」
「えっ、ダメなの?」
「選考基準は今日話し合ったじゃないか」

州政府の関係者が手を挙げました。
「私は調査員のひとりです。もし皆さんが基準に合致しない人を選んだら、調査員の家庭訪問でチェックされて候補者から除外され、結局は選び直してもらうことになります。そんな無駄なことをせず、最初からきちんと選ぶようによろしくお願いします」

みなさん、こんどは良く理解できたところで会議は終わりました。

次回は、JVCスタッフが入居予定者を訪問します

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