REPORT

スーダン

避難民住居の新設(6)お引越し騒動

前回から続く)

「タイーブ、トラックはまだ到着しないのか?」

「いま到着したところだ、アドラン。心配するな。家財道具の積み込みも始まっている」

2015年8月、カドグリ郊外のティロ地区に100戸の避難民住居が完成し、いよいよ引越しの日がやってきました。今日から4日間、JVCが提供するトラックが市内各地に散在する入居者の家財道具を運搬します。

      
              (レトロなトラック。故障するなと言うほうが無理?)                                                          (積み込み開始)

JVCスタッフのタイーブを乗せたトラックは、まずウム・バタア地区に向かいました。朝からトラックが故障して修理に時間がかかり、到着した時点で既に2時間遅れ。JVC事務所にいるアドランは気が気でなりません。携帯電話を握りしめて、現場にいるタイーブに何度も電話を掛けています。

「引越しする人たちは、みんな荷造りとかできているのか?」
「いや、ダメだ。トラックが来てからみんな荷造りを始めてる」
「おい、それじゃいつまでたっても終わらないぞ」
引越し用のトラックが来る日時は、もちろん事前に伝えてあります。けれども、事前のスケジュールなど信用できないのか、皆さんトラックの「実物」を目にするまで、本気で準備を始めないようです。

アドランは、事務所にいるスタッフのサラに声を掛けました。
「サラ、トラックはウム・バタアの次はどこに行く予定だ?」
「カリモーだけど。今日はカドグリの南側を終わらせる予定よ」  
ウム・バタア地区は市内の南東、カリモー地区は南西側の丘陵のふもとです。 「よし、サラ。今からカリモーに先回りするんだ。入居者の家を回って、トラックが来るぞって伝えて、家財道具を前の道路まで持ち出しておくように言ってくれ」
サラはカリモーに出掛けていきました。

ウム・バタア地区では、トラックへの積み込みが続いています。ベッド、イス、テーブル、ふとん、衣類が入った袋、水瓶。入居家族が運んできた家財道具が荷台にどんどん積み上げられます。
「よし、もうすぐ出発できるかな」  
タイーブがそう思っていると、入居者の男性が、長い木材を引きずってやってきました。
「あれ、なんですかそれ」
「トラックに積むんだよ。ウチのラクバを運ぶのさ」
「えっ、ラクバ?」

          
                          (これがラクバ)

「今、解体作業をしているから、ちょっと待ってくれよ」
ラクバというのは、日本語で言えば「あずまや」。木材の骨組みに草ぶきの屋根を付けたもので、スーダンでは台所、居間、作業場、夜は寝室としてまで使われる、要は「なんでも部屋」です。家の中に十分なスペースがない場合、ラクバは大切な居住空間です。

          
       (トラックを待つ人々。すでに解体したラクバの骨組みを持ってきている準備の良い人もいる(左側))

「ラクバの解体?」
タイーブが慌てて見に行くと、そこではまさに今、ラクバの屋根を取り外し、トラックに積み込むために家族総出で骨組みの解体作業が進んでいました。
「おいおい、ラクバを運ぼうっていうのか?そんなの無理だ。時間もないし、待ってられないよ」
「何言ってるんだ。うちは9人家族で、家の中に場所がないからラクバで寝てるんだ。これから行く家だって、ひと部屋だけだろう?ラクバがなかったらどこに寝ろっていうんだ」
 男性はそう言って、木材を縛ったロープを解いてラクバを解体しています。
「仕方ないか」
タイーブも、手伝い始めました。  携帯電話が鳴りました。アドランからです。

「おいタイーブ、まだ出発できないのか?」
「待ってくれ。いま、ラクバを解体してるんだ」
「なんだって?ラクバを解してトラックに乗せる?そんなことしてたら、何日たっても引っ越しが終わらないぞ。一日トラック借りるのに、いくらかかると思ってるんだ?」
「アドラン、ガマンしてくれ。もうすぐ終わるから」

アドランは、いてもたってもいられません。もう午後になりますが、まだ1回目のトラックへの積み込みも終わっていないのです。
先回りしてカリモー地区に行ったサラから電話が入りました。
「アドラン、こっちはみんな準備を始めてるわよ。荷物を道路まで運んだ人もいて、『トラックはいつ来るのか』って聞かれるけど、今どこなの?もうウム・バタアからは運び終わったの?」
「ううう・・」
トラックの故障、ラクバの解体。完全に計算が狂ってしまいました。

そのあとも「ラクバを運ばせろ」という入居者が続出。結局、その日に予定した引越しが終わったのはとっぷりと日が暮れた夜7時半でした。

          
                          (トラック発進!)

そしてなんとか4日間が過ぎ、合計41家族の入居者が引越しを完了。残り59家族は、自分たちで先に引っ越した人、または事情があって後から引っ越すという人たちです。 ここから、避難民住居での新しい生活が始まります。

   
        (避難民住居に到着、積み下ろし)              (ラクバ用の材木を積み下ろす)

一覧に戻る

関連記事

得られたものは技術や収入だけではないー評価報告②職...

50年越しの夢「私も学びたい」―戦争勃発から1年 ...

補習校が生んだ奇跡―スーダン戦争勃発から1年 #2...

2024夏募金 ふつうの幸せを取り戻すために