パレスチナ出張記【6】占領下の「強さ」に甘えてはいけない
パレスチナ出張記【5】空爆の記憶をもつ子どもたち の続きです。
ここまでガザ入域までの様子から、2014年の空爆被害の大きかったシュジャイヤ地区の様子を綴り、ガザの「壁の中」の様子を伝えてきましたが、ここからは少し、JVCの活動にフォーカスしたいと思います。
JVCはガザ地区北部のジャバリヤ市で、現地NGOの「AEI」とともに、母子の栄養改善に特化した活動を行ってきました。
ガザの中でも国連の支援が受けにくく(*元々ここで暮らしている人が多いので難民認定されにくい)、また調査の結果子どもたちの栄養状況が良くなかったことから、2013年から4年間のプログラムを、ここジャバリヤで実施してきました。
「母子の栄養改善」を目標に、AEIに所属する保健師がこの地域を一軒一軒家庭訪問し、母親と話し、「子どもの栄養に関する研修」の受講を呼びかけ、受講を希望した母親たちに向けて研修を実施し続けてきました。
そして、限られた食材で効率よく栄養摂取する方法や、栄養素に関する基礎研修などを終えた母親たちは、自分の家族の栄養状況改善に取り組むのはもちろん、今度はボランティアで各自が地域を回り、その知識を口コミで広げていくのです。
この4年で、自ら地域を回ってアドバイスまでを担うようになった女性は30人、そしてその女性たちがカウンセリングを行った地域の女性は5,000人を超えました。物資を支援するだけでない、封鎖されたガザ地区で女性たちの持つパワーを最大限に生かした活動です。
このような方法は一見、物資配布のような直接的な方法と比べると遠回りに見えるかもしれません。もちろん、空爆直後などは、物資の緊急支援を行うこともありますが、それ以外の時には、できる限り人それぞれが持つパワーを引き出し、地域に残る方法で役に立ちたい。
そう考えるJVCが、AEIとともに考えたプログラムです。
さて、私たちが訪問したこの日は、2013年から4年間の間にこの活動に参加した女性たちが集まって、振り返り会議を行っていました。
(前出のAEIスタッフ、アマルさんを中心に栄養研修や家庭訪問が行われてきました)
プログラム終了後の様子を少しずつ聞き取っていきます。
女性たちからは、
「ずっと家にいるだけだった。AEIとJVCと出会ってたくさんの経験を積めた」
「自分に知識が身についた。他人と関わりをもてるようになった」
「得た知識を他の母親に伝えることで、人の役に立てるのが嬉しい」
「周囲の母親、コミュニティとの繋がりが強くなった」
「自分の力で家族の健康を守れるのが、何よりも嬉しい」
との声があがりました。
AEIとJVCが実施した栄養に関する研修は、知識面のみならず、女性たちの自信や周囲との関わり方に大きな影響を与えたようです。
中でも印象的だったのは、「自分にも役割があることに気がついた」という言葉でした。
占領下の抑圧された生活は当然大きな負荷がかかっており、「自宅にずっといるのが辛い」という女性も少なくないようでした。
研修という用事で外に出て様々な人と接し、更には得た知識を使って生活していくことは、ある種の気分転換の意味も兼ねていたのかもしれません。
イスラム圏ということで、日本のように女性が積極的に外で活動を行うことが「当たり前」ではない文化もある中、少しずつ家族の理解を得た女性たちが率先して研修を受け、各家庭に知識を口コミで広げて行く様子は、心底かっこいい!と感じるものでした。
(また会えますように!)
振り返り会議を終え、車で移動中。
先ほど時間がなくて聞けなかったガザの日常生活の様子を、AEIスタッフのハイファさんに尋ねてみました。
ハイファさんは、ガザで生まれ育った35歳・4児の母。9歳、8歳、5歳、3歳の子どもを育てる頼もしいお母さんです。
彼女は、生活の様子を尋ねるとはっきりとこう言いました。
「生活は本当に厳しい」
「昨夜も電気は来たけれど、たった2時間。しかも皆寝ている時間だったので、気付くこともできなかった」
そして、こう言いました。
「もう、自分の人生において電気は大事なものではない、と言い聞かせている」と。
私はこの言葉を聞いた時、頭が真っ白になって、言葉を返すことができませんでした。
ハイファさんも先ほど会った女性たちも、ガザ地区に住むほぼすべての人がこのような生活を日常的にしているのです。
そして、それでもハイファさんはAEIのスタッフとして地域の女性たちに研修を行い、そして女性たちは研修を受け、地域の栄養失調を少しでもなくそうと取り組んでいるのです。
「自分がポジティブじゃないと、人に研修なんてできないのよ」と笑う彼女は圧倒的なパワーを放っていました。
「この人たちはどこまで強いんだろう」
そう思うと同時に、世界は、私たちは、この強さに甘えてはいけないと強く思います。
どんな理由があっても、このパレスチナの「封鎖」は明らかにおかしい。
「ガザを出て勉強してみたいけど、難しい」
こんな理由で夢をあきらめる必要がどこにあるのでしょうか?
どうして、「電気が必要なものではない」と自分に言い聞かせて暮らさなければならないのでしょうか?
このような不条理が許される世界であってはならないでしょう。
彼女たちの優しい笑顔が、どれだけの不自由や苦しみの上に成り立っているか。
この事実を決して忘れることなく、聞いたこの声を世界に届け、この状況を少しでも改善したいと切に思います。
「ガザをしっかり見て行ってね」
「しっかり見て、そして、伝えてね」
滞在中、幾度となく出会ったこの言葉の意味を胸に刻んで、ハイファさんとともにリヤードさんの運転するタクシーで、帰路につきました。
この日のことは一生忘れないし、忘れてはいけないと思っています。
(今回は7:10~10:00頃までのお話でした。ぜひ映像も合わせてご覧ください)
<パレスチナ出張記【7】停電中に差し出された冷たいジュース につづく>
(2023年10月10日追記)
JVCは2023年10月の情勢を受け、パレスチナ・ガザ緊急支援を開始します。
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