後半:紛争から10年経った今、難民キャンプの人々は。~幼稚園運営支援~
前回は「幼稚園運営支援・前半」として、2013年からJVCが行ってきた幼稚園運営支援への取り組み、教員の変化などをお伝えしましたが、今回は、地域住民の教育に対する考え方やイーダ難民キャンプ(以下、キャンプ)全体での変化について、難民の皆さんの声を交えてご紹介します。
「キャンプに初めて来たときは、多くの人が『幼稚園』が何をするところか分かっていませんでした。教育の重要性なんか少しも分かっていなかったんです。(学校や幼稚園が今ほどに活発になっていない頃は)同じ村の出身の子どもたちが集まって勉強はしていましたね。」そう語るのは、PTA会長を務めるハッサン・マキさんです。
(PTA会長ハッサン・マキさん)
「キャンプの教育委員会のメンバーやJVCが教員への研修や地域住民への呼びかけを続けたおかげで、みんなようやく教育の価値というものに気づいてきました。私たちPTAメンバーもできる限り子どもたちのサポートをしています。今はちょうど雨季(インタビュー時は6月)で、子どもたちが雨に濡れないようにお家に入れてあげたり、道中でケガをしないように幼稚園まで送っていったりしていますよ。」
「また、各幼稚園で、校舎や備品が不足しているので、PTAメンバーで話し合って、いろいろな方面から子どもたちを支えています。校舎建設のために、草木を集めたり、レンガをつくったり、子どもたちが学校で衛生的に用が足せるようにトイレを作ったりもしています。」
ラトリンと呼ばれる簡易トイレ(PTAメンバーによって建設中)
さらに、話を聞いてみると、2020年は新型コロナウイルスの影響で、幼稚園や学校が丸1年の間、閉園/校になっていたことを振り返りながら、「いいこともあったんです」と語ってくれました。
なんと、幼稚園や学校が政府によって閉じられて、「これ以上待てない」と地域住民が自分たちで、子どもたちが自由に集まって学び合いができる学童クラスを始めてしまったというのです。
実際にそこへ訪ねてみると、幼稚園から中等学校の生徒まで、その地域の子どもたち500人以上が集まって、いろいろな活動をしていました。円になって歌を歌っている子ども、黙々と勉強をする子ども、広場でサッカーをする子ども。
PTAメンバーや多くの保護者が見守る中、週3回集まって子どもたちに学びの機会や安心して過ごせる場を提供しているのだと言います。
この噂はすぐにキャンプ全体に広がり、教育委員会や幼稚園の先生の協力もあり、計10カ所で、こうした教育活動が行われました。(*1)
(*1) 2021年4月から幼稚園や学校が再開し、10カ所あった学童クラスも次第に数を減らし、現在は行われていない。その代わり、雨季の間(8-11月)は、通常では幼稚園は長期休暇となるが、2021年度は、休暇返上で継続している
地域の呼びかけから始まった学童。一か所に500人以上が集まっていた
キャンプを歩いていると、ふと子どもたちが集まっているのに気が付きました。
子どもたちに近づいて、「何しているの?」と聞いてみると、
小学校高学年くらいの女の子が「ここにいる子どもたちに勉強を教えているんだよ」と答えました。よく見ると20cm四方くらいの小さな黒板を使って英語を教えているところでした。
子ども同士の学び合いが至る所で行われる
そのあと、中等学校の先生と出会い、少し興奮気味に、「さっきこんな子どもたちに会ったんだけど!」と話すと、
「コロナが始まって学校が閉校してから、いろんなところで子ども同士で勉強しているよ。こっちの家もそうだし、あっちとあっちも。中には20-30人くらい集まっているところもあるみたいだよ」と答えました。
「そんなにいっぱい『子ども先生』が誕生していたなんて、イーダ難民キャンプの教育は安泰だね!」というと、あはは、と笑いながら誇らしげな顔をしていました。
紛争から10年。
数万人がイーダ難民キャンプへと逃れ、今もまだ避難生活を続けています。子どもたちの未来を守ろうとする人たちの手によって、少しずつ、でも確実にキャンプ全体で教育に対する意識が変わっているのを感じました。
今後もキャンプで過ごす人々の様子や教育によってどのような変化をもたらすのかに注視していきたいと思います。
次回は、紛争以来、キャンプに頼りとなる身寄りがいないため、保護や就学などのサポートを必要としている子どもたちの支援についてレポートしていきます。
執筆者:スーダン現地駐在員 山本 恭之
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