REPORT

スーダン

【TE349号】クーデター勃発。不透明な状況で高まる不安と活動を続ける意義。

本記事は会報誌「Trial & Error」349号(2022年2月発行)「[報告]スーダンでクーデター勃発」に掲載したものです。

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【職業訓練】溶接の訓練に参加している研修生たち

1980年代からの南北戦争、 度重なるクーデター、2011年の南スーダン分離独立に伴い勃発した南コルドファン紛争。19年に長期独裁政権が崩壊するも、21年10月にはクーデターが勃発。未だスーダンの政局は安定しません。こうした背景から小学校も卒業できない若者が多いですが、学びたい、家族を助けたい、と、JVC の就学支援と職業訓練に積極的に参加しています。困難な状況でも続けるしかない、平和を願う住民への活動を紹介します。

首相拘束と抗議デモ

 2021年10月25日の昼(スーダン時間の早朝)、スーダンの首都ハルツームに駐在するスタッフから、 クーデター発生の電話が入りました。「(国の最高機関の主権評議会議長で軍部の)ブルハン氏がアブダラ・ハムドゥーク首相や閣僚数名を拘束。インターネットが遮断された。」急いでネット検索すると、「首相の拘束に対して民主化勢力が抗議デモを呼びかけ、軍本部近くでは、民衆に軍が発砲。死傷者が出ている。」との速報を複数確認しました。

 この日から断続的に大規模デモが行われ、駐在員宿舎は大通りに近いため、「デモの最中には長時間にわたり銃声が聞こえる。」とのことでした。 このような状況下、ハルツームの日本駐在員と現地スタッフは在宅業務を行うことにしました。南コルドファン州カドグリのJVC事務所に電話連絡すると、カドグリでは大きな混乱がないと確認し、通常通り活動を行うことにしました。

就学支援と就職

 JVCは、カドグリ周辺の紛争による避難民が多い地域で、学校に通う機会を逸した児童を対象に補修校支援と職業訓練を実施しています。

 補修校支援は、約6カ月間、補修学級での学習で一定の学力を身につけた後、正規の公立小学校に橋渡しすることを目的としており、1年目の20年度は、当初計画320人を大きく上回る約400人の児童が正規校に編入しました。21年度は、291人の児童が9月に新学期を迎えた正規校に編入しました。また、新たに就学期を迎える児童が就学機会を逸しないよう、保護者、学校、行政との連携強化も行っています。不就学の理由を親たちに尋ねると、「入学金や学費を払えない」、「制服を買えない」との答えが多く、学校や行政は、「多くの親が子どもたちに家計を助ける仕事や家の手伝いをさせ、教育の必要性を理解していない」と言います。このように、三者に異なる問題意識や課題があることから、JVCスタッフがファシリテーターとなり、三者間で定期会合を持ち、就学の障害となる背景や解決方法などを話し合う場を提供しています。

 また、若者の就職機会が限られる状況を鑑み、21年8月から、主に避難民の多い地域の若年層を対象に、トゥクトゥク(三輪バイク)整備、溶接、縫製、食品加工の4職種の職業訓練を実施しています。2~3カ月の研修後は、工場(こうば)などで1~3カ月間の実施訓練を行い、その先の就職や生計向上に繋げることを目指しています。研修生の大半は、紛争や経済的事情で小学校をドロップアウトしています。また、多くは無職ですが、皆「親や兄弟を助けるために仕事がしたい」とやる気に満ち溢れていて、どの職種も出席率は高いです。すでに受け入れ先での実施訓練を開始しており、最終的な就職や生計向上を目指し、モニタリングを行う予定です。

 このように、カドグリでは大きな混乱はなく活動を継続しています。しかし、南コルドファン紛争の終結が見えないことや、経済悪化は人びとを不安にさせています。

安定しない政局でも諦めない

 未だ安定しないスーダン政局。19年4月、ガソリン不足やパンの値上げに耐えかねた国民が、打倒政権を呼び掛ける平和的デモで30年にわたる長期独立政権を追い詰め崩壊させました。その後、民政移管に向けて発足した暫定政権は、20年10月南スーダンの首都ジュバで国内各地の反政府勢力との和平協定に漕ぎつけましたが、南コルドファンを拠点とするスーダン人民解放運動北部(SPLM-N)の分派を含む一部反政府勢力はこれに参加しませんでした。また、財政再建のための補助金削除や、外国為替レートの変動制導入による通貨の切り下げなどの影響で、21年のインフレ率は300%を超え、市民生活を圧迫しています。軍部が、経済悪化への市民の不満の増大を利用して、21年10月のクーデターを引き起こしたことは否定できません。

 ブルハン氏は、23年に予定の民政移管は行うとし、20年10月の和平協定を含め、これまでに調印した国際社会との合意は順守する意向を示しています。また、今回のクーデターから約1カ月後、主要政党「ウンマ党」の仲裁で、ハムドゥーク首相を復職させ、拘束した政治家らの解放にも合意しました。しかし、新たに指名された主権評議会のメンバーから、19年の民主化革命を推進した民主化勢力「自由と変革勢力(FFC)」が排除され、FFCは軍が関与するいかなる合意も受け入れないと強く抗議しており、軍と取引したハムドゥーク首相への批判の声も上がっています。また、SPLM-Nの分派が、ハムドゥーク首相が復権した政権と和平交渉を継続するのかも不明です。

 JVCスーダン/南スーダン事業は、11年の南コルドファンの紛争で分断された、政府側、反政府側、国境を越えて南スーダンの難民キャンプで暮らす人々、それぞれへの支援を続けていますが、紛争が終わらない限り人びとの困難は続きます。19年4月の平和的デモで解放されたスーダン市民は、今回のクーデターへの抗議活動で、「逆戻りはできない」「命を奪われても抵抗する」との強い意志を表明しています。今後も、スーダンの市民が望む民主化プロセスが定着するよう見守っていきます。

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【補足説明:2011年の南コルドファンの紛争とその背景】
スーダンでは、南コルドファン州を含む歴史的に劣位に置かれ差別の対象とされてきた周縁地域の人々と、アラブ系のエリートが占める政府との間で1980年代に勃発した南北内戦が約20年間も続きました。2005年に包括的和平協定(CPA)が締結され、2011年1月の国民投票により、「南スーダン」は分離独立し、南北は二つの国家に分離。
しかし、2011年6月、スーダン側に取り残される形となった南コルドファン州において、南北共同統治の終了に合わせた州知事選挙を巡り与党と反政府勢力スーダン人民解放運動北部(SPLM-N)との対立が激化し、大規模な紛争が勃発しました。

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