取材中のパレスチナ人ジャーナリストが銃撃されました(2022年5月14日)
こんにちは、JVCパレスチナ事業です。
昨年5月に発生したガザ空爆から1年が経ちます。昨年ほど大規模ではないものの、4月のラマダン(断食月)に入った頃から東エルサレムやヨルダン川西岸地区のいくつかの都市では、イスラエル治安部隊とパレスチナ市民との衝突、それに対するパレスチナ人の不当逮捕などが相次いで発生しました。今年は、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教の宗教行事や祝祭が4~5月にかけて重なり、今週は「ナクバの日(※1)」(5月15日)も控えるなか、現地では少し緊張が高まりつつあります。
(写真:ラマダン中のエルサレム旧市街の様子。日没後の食事や買い物を楽しむパレスチナ人(イスラム教徒)の傍らには、銃を持ったイスラエル兵士がいます(右奥)。2022年4月9日木村万里子撮影 @エルサレム旧市街)
その最中、今週の水曜日(5月11日)パレスチナ北部のジェニンという街で、アメリカ国籍のパレスチナ人でありアルジャジーラの記者であるシリーン・アブ・アクレさんが銃撃され亡くなりました。
ジェニンでは最近イスラエル兵とパレスチナ人武装グループの衝突が頻発し、複数の死者がでており、その取材に入ったところでシリーンさんは銃弾に倒れました。
彼女はヘルメットをかぶってPressと大きく書かれたベストを着ており、彼女が撃たれたのは耳の下のあたり、ちょうどヘルメットでカバーされていない部分でした。イスラエル側は、同じ時間帯にジェニンで起こっていた銃撃戦のビデオを公開し、パレスチナ人武装グループによるシリーンさん殺害の可能性を示唆していますが、彼女に同行していた他の記者や近くにいた人たちは、その時周囲に武装したパレスチナ人はいなかったと証言しています。また、その位置関係についてイスラエルの左派NGOであるベツレム(B'Tselem)が分析した結果、公開されたビデオからはパレスチナ人武装グループが彼女を撃ったとは考えにくいという結論が出ています。
一方イスラエル政府は、パレスチナ人武装グループがシリーンさんを撃ったと主張し、調査を表明しましたが、パレスチナ政府はイスラエル政府による調査ではなく、ICC(国際刑事裁判所)に調査を依頼する意向です。
(写真:家屋収奪反対とシェリンさんの死の真相究明を求めるデモを行うパレスチナ人(右)とその様子を見るイスラエル兵士(左)。2022年5月13日木村万里子撮影 @シェイク・ジャラ地区)
彼女はジャーナリストとして、パレスチナ人だけでなくアラブ諸国の人びとに大きな影響力がありました。2000年の第二次インティファーダ(※2)をはじめ、現地で起こっている事実を広く世界に伝え、パレスチナ人の声なき声を代弁し、アラブの人びとから絶大な信頼を寄せられていたこともあり、とても多くの人が彼女の死について投稿したり、葬儀に参列しています。しかしシリーンさんの遺体の送致や葬儀の間ですら、イスラエル兵と警察が集まったパレスチナ人に対して、国旗を奪う名目(※3)で過剰に攻撃を加えたり、逮捕するなどしました。
ジャーナリストを殺害することは国際法違反ですが、それ以前に武器も持っていない一般人を撃つこと自体が犯罪であり、私たちはいかなる暴力にも反対し、ICCを通じた公平な調査による真相の究明を支持します。そして、二度とこのような尊い命が理不尽な形で奪われないように、真相究明後のしかるべき責任が明らかにされ、その責任が果たされることを求めます。
最後に、パレスチナ人の悲しみに寄り添い続けたシリーンさんのご冥福を心からお祈りしています。彼女が51年の生涯をかけて伝えたかったパレスチナの現状や人びとの声、悲しみ、怒りがより多くの人たちに届くことを願ってやみません。
* * *
(※1)ナクバの日: ナクバとはアラビア語で「大災厄」を意味するが、1948年5月15日、イスラエル建国によりパレスチナ人が住んでいた土地を追われて難民となった日を指す。
(※2)イスラエルがパレスチナを軍事占領していることに対して行われたパレスチナ人による民衆蜂起。
(※3)イスラエルの法律において、パレスチナの国旗を掲揚することは明確に違法とはされていませんが、エルサレムではパレスチナの国旗を掲げることで逮捕される例が後を経ちません。
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