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ラオス

【TE349号】3年半のプロジェクトが終了 その成果と課題を整理する

(本記事は会報誌「Trial & Error」349号(2022年2月発行)「[特集]ラオス事業総括」に掲載した文を抜粋・編集したものです。)

ラオス中南部サワンナケート県の農村10村で行ってきた3年半にわたるプロジェクトが2021年9月に終了しました。このプロジェクトによる成果と、今後に向けて見えてきた課題についてご報告します。

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人口の6割以上が農村地域で生活し、森林や河川からの自然資源に多くを頼る自給的な暮らしが営まれているラオス。
自然と共にある伝統的な暮らしが受け継がれてきた一方、経済成長優先の政策によって、持続可能性を無視した経済開発が拡大しています。大規模プランテーションによる土地収奪や工場排水による環境破壊、水力発電ダムの決壊事故などは、農村部での暮らしを脅かしています。

JVCはこのような状況に対し、地域住民の共有している自然資源が損なわれないように、村の自然資源を管理したり、住民の権利を強化したりする「自然資源管理」と「住民の生活向上を図る農業農村開発」を柱にした活動を行ってきました。

これらの活動による具体的な成果について報告します。

自然資源管理による成果

自然資源管理の活動では、対象となった全ての村で、村同士の境界である村境を画定し、地図を示した看板を設置。また、各村の歴史、自然資源管理・利用などに関する基礎的なデータを「村のデータ本」と題して冊子にまとめました。JVCの英語ホームページでも公開しています。
(https://www.ngo-jvc.net/en/ourprojects/activities-in-laos/の中段、「List of Village Data Book」)

これによって、歴史や村境、自然資源利用などについて村人が客観的に把握し、外部者に対しても分かりやすい形で説明できるようになりました。

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さらに、村人が使う森や川を保全する仕組みとして、2村でコミュニティー林を、4村で魚保護区を設置しました。これらは自然資源を持続的に利用するため、村内の森林や河川の一部を保護区として定め、規則に基づいて伐採や林産物の採取、漁労などを管理する仕組みです。

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この活動について、これまで水力発電の送電線建設のために村の森の一部が収用されたりしてきた村の住民からは、「共有の森がコミュニティー林として登録され、区域や利用の実態が明確になったことで開発事業者と交渉しやすくなった」、「これからは相手のなすがままにならないようにする」という声も聞くこともできました。

また、10村で法律研修を行い、住民の持つ自然資源に対する権利や管理に関する法令について伝え、開発による土地収用などには補償がなされるべきということや、土地などについて係争が起きた際に解決する手順など、村人たちが自分たちの手で自然資源を守っていけるような知識の共有を行いました。

農村開発活動による成果

農村開発活動としては、稲作技術の改善研修や家庭菜園、キノコ栽培、果樹やラタン(籐)の栽培、牛銀行、井戸やため池などの村共有の設備の整備、家畜の健康管理研修など、多岐にわたる活動を村人と共に実施してきました。これらの対象世帯が技術を習得し、村共有の設備も十分に利用されるようになりました。

例えばキノコ栽培では、4村36世帯が栽培方法を習得。世帯当たり月7キログラム余りの収穫があり、研修を受けていなくても自ら実践する世帯も出てきています。

また、牛銀行に参加したある世帯は、以前はあまりに貧しくて親戚からも避けられていたが、牛の面倒をよく見るようになったところ、興味を持った村人の訪問を受けるようになり、親類からも牛の世話を頼まれるようになったといいます。

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【補足説明:牛銀行】

ラオスの農村では、子どもの進学や結婚、あるいは、自然災害で農産物が被害を受けた時など、多額の現金が必要になる際に、牛を売ることで現金収入を得るという慣習があります。牛は、村人にとって、「まさかの時の財産」なのです。JVCの牛銀行は、牛を持っていない村人を対象に牛を貸し出し、繁殖によって牛を増やしていくシステムです。

活動の総括と今後

活動による変化が村々で起きる中、多くの村人から聞けたのは、「これほど毎週のように村まで来て話し合いを重ね、村を歩き回ってGPSで地図をつくったり、いろんな研修をしたりする団体は他にない」という声でした。

草の根から村人に寄り添いともに変化を起こす。JVCが積み上げてきたことであり、農村地域における開発のモデルともいえる活動ができました。

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村のデータに限らずこれらの活動の記録も収めた冊子「村のデータ本」を、行政や他団体の参考となるような資料として残しました。ただしこのデータもラオス国内で活動する近しいNGOや行政機関に共有されるにとどまり、特別に取り上げられたり、際立った普及が見られたりするには至っていません。プロジェクトの活動や成果を他の地域に普及させていくことが今後の課題となっています。

現在JVCはラオスの新たな地域で取り組みを開始すべく動いています。今回のプロジェクトで得られたような成果を他地域でも実現し、身の回りの資源を守りながら使っていく人が増え、活動が普及していくように努めます。

問題の根源的部分は、私たちの日常生活にある

ただし、途上国での開発は多くの場合、日本も含めた「先進国」と呼ばれる物質的に豊かな国々や都市でのライフスタイルが関わっています。
また、自然環境が破壊され、暮らしが脅かされているのはラオスだけではありません。大気も地球全体が共有する資源と言えますが、これが破壊され、気候変動によって世界中で天候不順や災害が頻発しているといいます。

ラオスや世界の国々で起きている持続的でない経済開発や気候変動による災害。その根源は私たちの日常生活にあり、「先進国」と呼ばれる物質的に豊かな国々や都市でのライフスタイルにあります。ラオスで盛んに大規模栽培されているゴムはあなたの自動車のタイヤや靴の原料となっているかもしれません。物質的な自然資源を使い尽くしたり、環境を破壊することにつながる生活こそが、気候変動や自然災害を引き起こしているといえます。
ラオス農村でみられる問題を遠く離れた一国の問題とせずに、地球全体の問題、自分たちが関わっている課題として受け止めていくことが必要です。

生活を見直していくことが求められているのはむしろ「豊かな」生活を送る我々の方かもしれません。我々にとってラオス農村の自然と共にある持続的な暮らしから学べることが多くあります。JVCは活動を通して得られた経験を基に、今後も訴えを続けていきます。

参考リンク

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