【イエメンレポート】決して当たり前ではない、出生登録書を手にする喜び
今回の記事は、イエメンの「出生登録書」についてです。
出生登録書などの身分証がないと、避難先で援助を受けられなかったり、教育の機会を失うなど厳しい状況に直面したりすることは、9/22の記事でご紹介したとおりです。そこで、イエメンの「出生登録書」をとりまく状況について、事業担当の伊藤が詳しくお伝えします。
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こんにちは!JVC事務局長伊藤解子です。今日は、JVCイエメンの活動の1つである「出生登録支援」についてご報告します。
そもそも、イエメンでの「出生登録」とは一体どのようなものなのでしょうか?
日本では、病院や助産院で子どもが生まれた後、お医者さんや助産師さんが書いてくれた出生証明書を携え、保護者の本籍や住民票がある役所などに出生届を提出することによって、戸籍が登録されます。
イエメン/アデン市タワヒ地区ヘルスセンター分娩室
イエメンでも出生登録のプロセスはほぼ同じです。ただ、病院のない地方では助産師さんに加えて、祖母、近所の人など女性であれば出生証明ができ、地域のコミュニティリーダーの承認をもらった後で、行政機関に行って出生登録をするそうです。
イエメンでは、本人確認ができる書類として出生登録書のほかに「身分証明書」が存在します。子どもが16歳になるまでの間は、出生登録書を使用し、その後、身分証明書に切り替えるそうです。そして10年ごとに更新手続きが必要です。紛争が始まるまでイエメンの人々は、故郷で出生登録をしていました。
けれど紛争の影響を大きく受けるようになり、戦闘下、着の身着のままで逃げ出してきたり、転々と避難場所を変えたり、避難生活が長引く間に両親が身分証明書を紛失してしまうケースが多々発生しています。
(*先日更新した、身分証を所持していない方々へのインタビューで詳しく報告しています)
援助物資を受け取れないなど厳しい状況を語ってくれたバスマさん
また、この紛争中に生まれた子どもたちは、両親の出身地に戻って出生登録をすることができません。両親が身分を証明できなかったり、身分証発行の登録料が払えないことによって、出生登録ができないまま、見送られてきた子どもが多くいるのです。
アデン市内の国内避難民居住サイト
新たな身分証明書の発行には慎重なプロセスが求められます。居住サイト(避難しているキャンプがある区域)のキャンプリーダーの承認や医者の診察による年齢判断、法律的なサポートなどの調整が必要で、個人ましてや故郷を追われて避難している方々自身で対応するには大変すぎるプロセスです。
避難している方々(国内避難民/IDP)が住む区域では、各支援団体による物資配布が行われています。
ソメイヤさんの2才になる末っ子は国内避難民居住サイトで生まれた
支援物資を受け取るのは世帯単位でということが多く、家族構成が確認されます。つまり、身分証明書や出生登録書を元に身分証明できないと、支援物資を受け取ることができないのです。このような混乱の中の緊急措置として、教育分野では、出生登録書がなくても9年生(日本の中学3年生)程度まで学校に通うことを黙認してくれる場合もあるとのこと。
けれど、その先の進学は許されません。
さらに、両親が身分証明書がないことを理由に教育の継続を止めてしまったり、特に女子生徒は進級できない中で結婚を勧められ、教育を受ける道が閉ざされてしまうこともあります。出生証明書、身分証明書は、子どもの保護(Protection)の意味においても重要なことなのです。
国内避難民に発行される仮の身分証明。これがあれば物資の支援などが受けられる
また、身分証明書は就職をする時にも重要です。「この混乱の中で、そんなにしっかり身分確認しているものなの?」と聞いたところ、「レストランでもお店でも、人を雇用するときには身分証明書を確認しているよ」とのこと。
イエメンの食堂では子どもから大人まで、必要人数以上の大勢のスタッフが働いているのを見かけます。失礼ながら、そこまでしっかり雇用システムがあるとは思わなかった・・・。
アデン市内の国内避難民居住サイトで、水を運ぶ少年
身分証明書は、生きていくために使える様々な権利を十分に行使するための基本的な証として、必要不可欠です。
身分証明書の発行によって得られるものは、獲得できるチャンスだけではありません。その喜び、安心感はとても大きなものなのだと、イエメンでの出生登録支援を決めました。JVCは紛争下の混乱が続くスーダンにおいても、出生登録支援プロジェクトの実施経験があります。
「支援対象のコミュニティで、出生登録証を母親たちに手渡しました。スタッフが到着すると、事前に知らせを聞いていた母親たちが、続々と集まってきます。住民リーダーや男性も見学にやってきました」
「母親たちは待ちきれない様子で、スタッフに自分の名前を伝えます。スタッフが登録証を探す間は少し不安そうですが、名前を呼ばれて登録証が渡されると、内容を確認したり、住民リーダーに’おめでとう!’と言われて嬉しそうに握手を交わしたりしていました」
スーダン/登録証を待つ母親の近くで遊んでいた男の子たち
世界には、特に紛争が続いているような地域など、身分証明書を手にすることが当たり前のことではない場所があります。
身分証明書を手にすることは、ドキドキすること、お祝いすることになる場所があり、そこに暮らす人々がいるのです。
様々な支援活動を行うNGO側も、身分証明のできない避難民が見つかった場合には、身分証明書の取得ができるよう、各機関に繋げています。
けれど、国際支援が減額を続けているここ数年、国連機関のUNHCRが実施していた身分証明発行支援においても、資金が底をつき活動が中止される地域が出ているといいます。自分の存在を証明し、生きる道を開く身分証明書。発行には専門的な支援が必要で、当事者だけでは難しいのです。
自分が描いた絵を見せてくれる子どもたち
イエメンには本当に多くの支援が必要とされている中で、限られた資金でJVCとして何ができるのだろう・・・。パートナーの現地NGO「NMO」と協議を重ね、身分証発行支援を決めました。
今回のプロジェクトでは、出生登録書を400人、身分証明書を150人に支援する計画です。温かいご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。
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