【イエメンレポート】伝統衣装「マウワズ」とジャマルさん
今回の記事は、イエメンの伝統衣装「マウワズ」と、それを支えてきた1人の職人さんにまつわるエピソードをお届けします。
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こんにちは。JVC事務局長の伊藤解子です。
イエメンの南部アデンを拠点に、現地調査に入った私と今中。
「国際便の玄関口」といわれるアデンでも外国人が少ない中、アジア人顔の私たちが自由に街を散策するのは、セキュリティ管理上難しい状況でした。
そんな中、「現地では何が起きているのか」「普通の市民の生活を知りたい」と思っていたところ、週末のオフの日に、パートナーの現地NGO「NMO」のスタッフが、街中に連れ出してくれました。
案内してくれたのは、旧市街のスーク(市場)。日用品から食品まで、あらゆるお店が立ち並んでいます。
アデン市の旧市街のスーク(市場)を歩く
散策中、NMOのスタッフが「ちょっと寄って行ってもいい?」と入ったお店は、イエメンの男性たちの伝統衣装である巻きスカート「マウワズ」生地のお店でした。
それぞれのマウワズの色に合わせて、ワイシャツをコーディネートしたディスプレイに目が奪われます。本当に素敵です!
マウワズ屋さんのディスプレイ
子ども用サイズのマウワズのディスプレイも。かわいい!
子ども用マウワズ
店員さんが、このデザインはホデイダのもの、このデザインはアビヤンのもの・・・など、イエメンの地域ごとにデザインが異なっていることを説明してくれます。それぞれのデザインが各地方の特色を表していて、伝統や流行りがあるのでしょうね。
アデン市旧市街のマウワズ屋さん
街中ではこの店員さんのように、マウワズを巻いている男性たちを多く見かけます。
地域によりますが、「ジャンビーア」 と呼ばれる半月の形の刀を鞘に差して腰の正面に携帯するのがイエメンのスタイル。ジャンビーアをつけるとイエメンっぽい感じがさらに増して、結婚式などの場でも着られる衣装になります。
ジャンビーア
そして、同じ店内に売られていたのが「ハドラマウト座り」と言われる、主にハドラマウト地方の人たちの昔ながらの座り方をする時に使う「ひも」。ハドラマウトというと、ユネスコ世界遺産でも有名な「砂漠の摩天楼」が位置するシバームのある地域ですね。
床に長く座る時にはこの「ひも」があると楽らしい...。これも伝統文化ですね。
ひもを膝にひっかけて座るのがハドラマウト座り。今中もトライ
マウワズとセットでディスプレイされている「ひも」
こうしてイエメンの「衣」から垣間見られる伝統文化に魅せられてしまいますが、ふと、ホデイダ県ホーハの国内難民居住サイトで出会ったジャマルさんのことが浮かびます。
「街にフーシー派(アンサール・アッラー)が占領してきて避難するまではマウワズの仕立て屋をしてたんだよ。けれど、避難してきた。長い間何もすることができない。戻ることもできない。なんでもやれることがあれば、職業のスキルを学んで挑戦したいんだ」
中央がジャマルさん、ホデイダのIDP(国内避難民)サイトで
他にもジャマルさんは、転々と避難を続ける中でお子さんが3年間通学することができなかったことや、紛争の心理的な影響で夜中に叫びだす子ども、栄養が足りていない子どものことなど、避難生活の困難さをリアルな言葉で私たちに届けてくれました。
あのジャマルさんも、本来ならばきっと代々継いできた自分のお店で、様々な地域の伝統的なデザインの織物を紡いでいたのでしょう。
ジャマルさんが新しく仕立てた生地で作った一張羅のマウワズを、お客さんたちが嬉しそうに身につけて、誇り高くジャンビーヤを腰につけて、結婚式などに出かけて行っていたのかな。
当時の生活が思い浮かびます。
戦禍の中、新たな生活のために、それまでの職業を手放して新たな職業技術を身につける用意がある!と口にしていたジャマルさん。
決して決して簡単なことではないはずです。これ以外にも、どんな苦渋の選択をいくつ重ねてきたのでしょうか。
平和な市民の日常生活を壊し、奪い去る戦争。
その後も生き延びるために、家族の生計を支えるために、人々が向き合わないといけない現状の厳しさ。
イエメンでこうして生きている人々を支えたいと、心から思います。
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ハドラマウト座りをもっと詳しく知りたい方はこちらから。
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