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スーダン

目が見えない少年の歌声―紛争下のスーダンで誰も取り残さない 教育支援

こんにちは、スーダン事業駐在員の今中です。スーダンは戦闘勃発から8か月以上経過しており、戦闘地も日々変動しており情勢は更に悪化しています。多くの支援団体が活動中断、縮小、停止を余儀なくされる中、学校もスーダン全土で閉校している状態です。

こうした状況の下、JVCはスーダンの南コルドファン州カドグリで、子どもたちのための補習校を運営し、修了後の教育継続を促進しています。

現在実施している補習校に盲目の少年、アブドゥルカリームくん(11歳)が参加しています。現地職員がインタビューを実施しましたので、現地からの声をお届けします。

 

Q:誰とどこに住んでいますか?

A:父親、母親、4人の兄弟、4人の姉妹と住んでいます。202210月に民族衝突が発生し、ラガワという街からカドグリに避難してきました。補習校センターの近くに家があります。父親は小さな売店で働いていて、母親は主婦です。

Q:これまで学校に通ったことはありますか?

A:ありません。補習校に参加する前は家のお手伝いをしていました。今、勉強することができて、母親も喜んでいます。

Q:好きな科目は何ですか?

A:コーランの勉強が好きです。

Q:補習校を修了したら、やりたいことはありますか?

A:引き続き学校で勉強したいです。しかし、目が見えないため、学校に行くのを手伝ってくれる人が必要です。将来は医者になりたいです。そのためにはもっとたくさん勉強しなくてはなりません!

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今年は活動地カドグリでも大きな戦闘が発生し、子どもたちは戦闘機を目の当たりにし、砲撃や空爆の音を日常的に耳にしていました。そのため補習校では、勉強だけでなく、心理サポートや子どもが安心して過ごせる空間作りにも力を入れています。

その一環として、スポーツ、お絵描き、歌・ダンス、劇の時間を設けています。歌を選択したアブドゥルカリームくんは、才能を開花させました。伝統楽器にあわせて、段々と自信をつけていく歌声をぜひお聴きください。

 
 

「誰も取り残さない」を当たり前に

障がいを抱えた生徒はアブドゥルカリームくんだけではありません。現在何かしら障がいのある生徒は9人登録されています。

毎月実施している教員会議では、「自閉症の生徒がいて、当初は他の生徒と交わろうとしなかったのですが、今では毎日一番早くに補習校に来て準備しています」と、ポジティブな生徒の変化が報告されています。

▲定例教員会議では課題・成功体験などが共有され、
よりよい補習校運営のために協議される。

さらに地域で実施された、保護者グループと若者が企画した教育に関する啓発でも、「障がいを持つ生徒を学校に送ることは当たり前のことだ」「こうした児童に対して教員も適切な対応が取れるよう研修が必要だ」との声もあがり、全ての児童が教育を受ける権利を有していることが参加者全員で確認されました。

▲啓発活動にてスピーチする教育局の男性職員
 

国連の報告によると、現在スーダンでは1,900万人の子どもが不就学の状態です。戦闘勃発前から不就学児童は沢山いましたが、この戦闘を機にスーダン全土で「教育危機」に瀕しています。一度学業から離れると、戻ってくることが非常に困難になります。

1,900万という数字は途方もない数ですが、アブドゥルカリームくんのように1人1人に物語があり、夢があります。

日本の子どもたちもスーダンの子どもたちも変わりはありません。苦境の中でも奮闘する子ども、保護者、教員や行政の方々がいます。引き続き皆さんの支援・応援を宜しくお願いします。

▲サッカーの練習のためにウォームアップする生徒たち
   

 

 

執筆者:

今中航

スーダン事業 ハルツーム事務所現地代表/イエメン事業担当

京都府出身。大学でアラビア語を専攻し、在学中にイエメンに留学。語学以外に現地の宗教、文化、慣習等を学ぶ一方で、革命や紛争の影響等でライフラインが崩壊した生活、教育を受けられない子どもたちや仕事を失う大人たちを目の当たりにする。
卒業後は途上国・新興国のインフラ支援に携わりたいとの思いで、メーカーにて発電プラント事業を担当。もっと現地の人々に寄り添いながら、可能性が広がることに尽力したいという思いが大きくなり、2018JVCに入職。好きな食べ物は(料理しないけど)かぼちゃを使った料理。

スタッフインタビュー「JVCの中の人を知ろう!~今中航さん編~」

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