こんにちは、スーダン事業駐在員の今中です。
戦闘勃発から1年以上経った今も、JVCの活動地である南コルドファン州を含むスーダンのほとんどの地域では学校は再開していません。JVCは教育のアクセスを失った子どもたちに補習校を運営し、学びの場を提供していますが、地域の協力が必要不可欠です。保護者は学びの場となる簡易な小屋の建設、水汲み、掃除、欠席した児童のフォローアップなどを通して補習校を支えてくれています。若者に対してはライフスキル研修を通して、どうやってコミュニティに貢献できるかを話し合ってきました。
立ち上がった若者
研修を受けた若者たちが発案して、地域を巻き込んだ教育に関する啓発活動を5地区で実施しました。当初はこのような企画・調整をした経験がなく自信なさ気でしたが、地域のリーダーや住民を巻き込んで、想像以上の人々が集まりました。
よりメッセージを住民に届けるために、アラビア語だけではなく、現地の言葉も積極的に使用されました。
「学校に行くということは、”安全な場”で学べ、外の”危険”から守られるということでもある」
「教育を受けることによって紛争・衝突を防ぐ足掛かりになるだけでなく、子ども兵士や児童労働から子どもを守ることもできる」
「日本が発展してきたのも、人々が教育を受け、技術・知識を手に入れてきたから。私たちもそれに学びましょう」
設営されたテントにはアラビア語の標語が貼られていました。
直訳すると「知があれば柱がなくても家を建てることができるが、無知は家の誇りと名誉を破壊する」。
もう少しかみ砕くと「教養・知識があれば何もないところからでも成功することができるが、無知であると物が揃っていたとしても失敗する、先祖が築いてきた功績をも破壊する」という力強いメッセージが込められています。
行動に移した青年と母親たち
啓発セッション後、ルフという地区で大きな動きがありました。
刺激されモチベーションの高まった保護者たちが「私たちも学びたい」と声を挙げ、それに地区の青年ハリールさんが応えました。識字教室を開くことになったのです。JVCは直接的には運営には関与せず、困ったことがあれば適宜アドバイスするという関わり方をすることにしました。女性を中心に数十名の大人が参加しています。
どういった方がどういう経緯で勉強しているのでしょうか。
補習校に参加しているアワーティフさんの野望
自身の子どももJVCが運営する補習校に参加しているアワーティフさんは大きな野望を持っています。
「兄弟たちは皆学校に行ってましたが、私は幼くして結婚したこともあり、1回も勉強したことはありませんでした。役所で掃除や給仕などして働いていましたが、ずっと勉強したい!という願望を持っていました。私たちの望みにハリールさんが応えてくれたのです。アラビア語の文字の書き方を学んだので、娘が補習校で学んだことを一緒に確認できるようになりました。識字教育はまだ続きがありますし、読み書きが問題なくできるようになって、朝の学校に進学し、なんなら大学まで行きたいです。」
中間表彰式で成績表を手にするアワーティフさん(右から4番目)。JVC職員イスマイル(右から2番目)も招待され参加した。
マリーさんの50年越しの思い
南スーダン出身マリーさんにも50年越しの思いがありました。
「幼稚園には通っていましたが、戦争のせいで勉強を続けることはできませんでした。私もずっと勉強したいと熱望していましたが、結婚してからは代わりに子どもたちに教育を受けさせることが私の目標になりました。そして無事に卒業させることができました。
私も読み書きができれば、携帯電話で友人や親戚の名前や番号を登録することができるし、聖書も読むことができると思い、識字教育に参加しています。今後も引き続き読み書きのレベルを上げ、ハリールさんのような先生になるために大学に行きたいです。
他の女性たちにも一緒に識字教育に参加するよう呼びかけています。コーヒーを飲みながら、子どもたちに教育を受けさせることの重要性についても話しています。例えば、先月も子どもたちが送金をしてくれましたが、もし教育をしっかり受けさせていなかったら、こうやって私が受け取ることもできていなかったでしょう」
識字教育の教員、ハリールさんの声
そして母親たちの願望に応え、識字教育の教員を務めるハリールさん。参加者に現れた変化を指摘しています。
「教室もなく、机や椅子も十分にないので、壁の陰に入って教えています。それでも学力の向上だけにとどまらず、教育への関心が高まり、子どもを補習校に積極的に通わせるようになっています。さらに時間を守ったり、市場で本当に必要なものだけ購入するといったような家計管理がしっかりできるようになったと聞いています。」
嬉しい連鎖反応
ルフ地区の紹介をしましたが、識字教室が開始したのはここだけではありません。
サンマという地区でも、ライフスキル研修に参加した若者が教員として識字教育を開始したという嬉しいニュースが飛び込んできました。35人の女性と1人の男性が読み書き・計算を学んでいます。さらに現地の女性グループが識字教育を開始したいが、JVCのサポートを受けられないかと事務所に訪問してくることもありました。
サンマ地区で緊張した面持ちで識字教育に参加する女性たち。奥には男性の姿も。
南コルドファン州都カドグリでは戦闘が頻発し、インフラや行政サービスも脆弱化し、物価高騰・物資不足の中、支援物資がほとんど届かなくなっています。
そんな人道危機が進行する中でも、驚くべきことに現地の発案により識字教育が開始されました。さらに今回インタビューした女性たちは高齢で小学校にも行ったことがないにも関わらず「大学まで行きたい」と堂々と答えました。
厳しい状況であっても誰かを支えようとする強さ、向上しようと前に進もうとする姿勢、そして年齢や環境にとらわれることなく夢を語る”はつらつさ”には、私たちが学び、励まされる思いとなりました。
この「嬉しい連鎖反応」をさらに広げられるよう活動を続けていきます。是非記事の拡散や寄付などで協力していただけると大変幸いです。
執筆者
スーダン事業 ハルツーム事務所現地代表/イエメン事業担当
京都府出身。大学でアラビア語を専攻し、在学中にイエメンに留学。語学以外に現地の宗教、文化、慣習等を学ぶ一方で、革命や紛争の影響等でライフラインが崩壊した生活、教育を受けられない子どもたちや仕事を失う大人たちを目の当たりにする。
卒業後は途上国・新興国のインフラ支援に携わりたいとの思いで、メーカーにて発電プラント事業を担当。もっと現地の人々に寄り添いながら、可能性が広がることに尽力したいという思いが大きくなり、2018年JVCに入職。好きな食べ物は(料理しないけど)かぼちゃを使った料理。
●スタッフインタビュー「JVCの中の人を知ろう!~今中航さん編~」