REPORT

緊急種子支援 (1) ― 南コルドファン州の現状と種子配布―

こんにちは、スーダン事業駐在員の今中です。戦闘勃発から500日が経過しましたが、停戦交渉は行き詰まり、人々の置かれた状況は深刻です。国連OCHAの報告によると、1,000万人以上が故郷を追われ、紛争地帯の75%以上の医療機関が機能せず、1,900万人の子どもが教育のアクセスを失い、人口の半分以上にあたる約2,500万人が支援を必要としています。詳細は月刊JVC『世界最大の避難民危機、スーダン~戦闘勃発から500日、現地駐在員レポート~』も併せてご覧ください。

●南コルドファン州の厳しい状況

JVCが事務所を設置し、活動を継続している南コルドファン州カドグリで、スタッフに「今一番恋しいものは何か?」と聞いてみると「電気」という答えが返ってきました。カドグリでは1年以上に渡り電気がありません。物流が寸断され、ジェネレーターを稼働するための燃料も高騰しているために、家庭では簡易のソーラーパネルや懐中電灯で凌いでいる状況です。電気がないため材料を冷蔵できないレストランは営業停止に追い込まれ、レストランのおこぼれを頼りに生きるストリートチルドレンは食べるものがありません。「家族」と答えたスタッフもいました。カドグリでも軍事衝突が頻発し、家族は比較的な街へ避難。以前は車で6時間程度で移動できた街へも、現在は4日もかかります。異なる軍事組織が複雑に勢力争いをしているために、道路封鎖や検問の多さから何日もかかってしまうのです。

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カドグリーダレンジーオベイドを結ぶ唯一の幹線道路は国軍(赤)、SPLM-N(緑)、RSF(黄)が複雑に勢力分割している。(出典:Sudan war monitor)

過去の紛争で元々避難民であった住民はもろに影響を受けており、道路封鎖による物資不足によって物価は急激に高騰し、商業活動が停滞し、収入源を失うだけでなく、戦闘勃発以前まで受けていた食料支援を受け取ることが難しくなっていますJVCが運営している補習校に参加している児童の保護者の話やスタッフからの報告を聞いても「補習校で提供される軽食を食べるが、家に帰ってからは何も食べないまま寝ることもある」「教室で泣いている少女がいて、理由を聞くと、朝から何も食べていない」「親族からの送金に依存していたが、戦闘後送金されなくなり生活が苦しい」といった悲痛な声が聞こえてきました。

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コミュニティでの聞き取りを実施。

さらに、避難民が増加している国軍支配下にあるスーダン北東部では、多数の支援団体が活動を実施していますが、アクセスが遮断されている南コルドファン州は、支援の輪から取り残されています食料不安を計測する世界標準「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」においても、州都カドグリはフェーズ4の「人道的危機」とされており、今年の9月には最悪のフェーズ5「滅的飢餓」に陥る可能性が高いと警鐘を鳴らされているのが現状です。

●緊急支援を決定

南コルドファン州は雨季(5-11月)に豊富な雨量を誇り、多くの人々は農業を生業としています。しかし昨年は、紛争の影響で農地に行くことが困難な地域も多く、収穫量も例年より少なく、生活が苦しくて保存していた種子を売ったり食べたりしたために、今期栽培するための十分な種子がほとんど残っていませんでした。こうした状況下、栽培しやすく様々な料理に使用される野菜や主要穀物の種子を配布し、住民の自給自足を支えることが、長引く戦争において人々の命を守ることにつながると考え、緊急支援を決定しました。そして配布する種子は在来種に決定。確かに改良種は、早くかつ安定した収穫が期待できますが、種を採取することができず、毎回種苗会社から種を購入しなくてはいけません。それでは持続可能性があるとは言えません。在来種は、地域の気候風土にあわせて適応してきたため抵抗力が比較的強く、大きな農地を持たないカドグリの農民に適しています。

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JVC事務所に届いた種子

通貨価値の下落が続いているため、支払いが1週間遅れるだけで種子の価格も高騰します。契約書を締結したにも関わらず、値上げを要求されたり、十分な数量がないという連絡がありました。契約書の意味とは?と思いつつも、雨季のタイミングを逃さずに、大量の種子がJVC事務所に到着したときは安堵しました。

●住民とともに配布

関係機関とも協議し、4つの集落を選定し、クライテリアを設定して特に支援を必要としている250世帯へ以下の穀物及び野菜の種子を配布しました。雨量が十分あり収穫がうまくいくと、平均的な家庭であれば半年分の食料は確保できる量です。
・ソルガム(主食となるイネ科穀物)
・落花生
・ササゲ(マメ科)
・オクラ

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集落の住民自身も協力して、種子を運搬し、1世帯ずつ計測し、配布。

配布現場にクワを持ってくる人々の姿もありました。配布の前から農地を整備して、種子の配布を待ちわびていたようでした。「去年もソルガム、落花生、ササゲを栽培したけれど、家計が厳しく全てもう食べてしまいました。今年収穫した分は家族で食べ、来年また栽培するように少し保存しておくつもりです」と受け取った際に話してくれました。

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JVCカドグリ事務所イスマイルと種子を受け取った女性にも笑みがこぼれる。

カドグリでは主に雨の水に頼る天水農業のため、気候の影響をもろに受けます。雨が多すぎても、少なすぎてもいけません。どうかいい塩梅で雨が降ってくれますように、と祈りつつ私たちは配布後も栽培のフォローアップを続けています。次回の記事でまた報告しますで、JVCのメールマガジン購読やSNSをフォローしてお待ちください。

執筆者

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今中航

京都府出身。大学でアラビア語を専攻し、在学中にイエメンに留学。留学中に「アラブの春」と総称される民主化運動が始まり、ライフラインが脆弱化し、国が混乱に陥っていく様を目の当たりにする。卒業後は途上国・新興国の根幹を支えられるようなインフラ支援に携わりたいとの思いで、メーカーにて発電プラント事業を担当。退職後、現地の人々により近い距離で可能性が広がることに尽力したいという思いが大きくなり、2018年JVCに入職し、以降スーダンに駐在。イエメン事業立上げに参画し、2022年よりイエメン事業担当も務める。

●スタッフインタビュー「JVCの中の人を知ろう!~今中航さん編~」

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