避難先でも続く暮らしの営み①
イエメンでの子ども広場プロジェクトが行われているのは、内戦で故郷を追われた人々が身を寄せる、ラフバ避難民キャンプとラジュヒ避難民キャンプです。
今回の記事では、彼らの避難生活の様子をお伝えします。
ラフバの住民が口々に訴えるのは、テント生活の過酷さです。中には空調がないため、日差しの出ている間は暑く、夜になると寒くなります。1日の中で寒暖差がある環境では、体調を崩しやすくなってしまいます。また雨が降ると水が入ってくるため、ベッドが濡れて寝られないこともあるのだそうです。そこでアミドさんは、水が中に入らないよう、雨の通り道となる小道を作りました。
ラフバ避難民地区で積極的に地域のボランティアに携わるアミドさん
一方ラジュヒでは、2024年8月頃に、シェルターがテントから木造の建物に変わりました。暑さ対策のため窓がついており、天井には耐熱シートが貼られています。耐久性が改善され、プライベート空間も確保されています。それでも暑いときには、石でできた家畜用の小屋や外で寝ることもあるそうです。一方、シェルターの改善によって「人間になったような気持ちがする」という声も聞かれています。現在のシェルターは人間としての尊厳を守る最低限の設備であり、それまでは人間性を奪われるような過酷な生活を強いられていたことが窺えます。
3メートル四方の木造シェルターの内部
避難民キャンプにはインフラも整っていません。ラフバでは以前、1時間離れた井戸まで歩いて水を汲みに行っていました。どちらのキャンプでも今は他のNGOの支援により近くで水汲みができるようになったとのことですが、ラフバでは今でも水が足りないときには、20分くらい歩いて汲みに行かなければなりません。またガスや燃料もないため、火を起こすために薪を拾い集める必要があります。学校も過密状態で、1つの教室に200人もいて教員の目が行き届かず、生徒の理解は良くないといいます。
紛争自体による身の危険からは逃れられても、避難生活が過酷なものであることに変わりはありません。
命からがら避難した先でも、温かく迎え入れてもらえるとは限りません。ムヒーブさん一家は、親戚全員で住める家がないために避難を繰り返し、3ヶ所目に辿り着いたのが今のラジュヒ避難民キャンプでした。
しかしそこで暮らし始めると、今度はホストコミュニティとの不和に直面します。例えば、火を起こすための木材集めをホストコミュニティの人に禁止されるというケースが多発しているのです。ムヒーブさんは、ホストコミュニティの人に「なぜ自分たちの土地なのに侵入してくるのか?」と言われても、何も言い返さないようにしているそうです。いい人ももちろんいるけれど、一部の人は傲慢に感じると言います。11歳のイルティザークさんも、避難してきた当初はホストコミュニティに受け入れられず、喧嘩が多かったと話していました。ラフバのザハラさんは、代わりにゴミを集めて燃やしていると言います。
ザハラさんは、夫婦共に働けない生活の苦しさを語る
避難先のホストコミュニティの人々との関係性も、避難民たちが向き合わなければならない課題の一つとなっています。
戦争は、人々から家や財産はもちろん、なりわいや暮らしそのものまで奪います。避難民キャンプの住民にも、戦争前にはそれぞれの仕事がありました。雑貨店経営、レンガ作り、牧畜、帽子作り、養蜂...しかし身一つで逃げた先には、それまで毎日通っていた畑も店もありません。それぞれの生計手段で自ら暮らしていた人たちが、今では食糧支援や寄付に頼らないと生きていけない状況を余儀なくされているのです。国際機関からの援助も減らされ、食糧確保が困難だという声も聞かれました。
避難前は養蜂を営んでいたというアブドゥルアズィーズさん
病気などの理由で働けず薬も買えないという人もいますが、一方で物の配達やバイクの運転手、ホストコミュニティでの収穫手伝い、出稼ぎなど、できることを探して何とか生計を立てようとする人も多いです。
ラジュヒのサーリムさん一家は、チーズ作りで生活の糧を得ています。サーリムさんの母親が、スナイパーのいる故郷に戻って牛を一頭連れ帰ってきたのです。現在は、この牛のミルクから1個あたり1.5米ドル程度のチーズを週に3〜4個作り、子どもたちに食べさせたり商人に売ったりしています。羊も7頭飼っていて、ミルクを飲んだりイード(イスラム教の断食月ラマダン明けの祝日)に食べたりしているそうです。
サーリムさんたちが作ったチーズ
人々は紛争で大切なものを奪われても、新しい土地で何とか生計を立てようと奮闘しているのです。
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