対等な関係とその先の希望 パシュトゥー語講座を通して
(ボキャブラリーを練習する著者)
昨年(2016年)の8月末から、JVCアフガニスタンボランティアチーム(以下ボラチーム)のメンバーで月1回開催しているアフガニスタン公用語『パシュトゥー語講座』。恐らく開催されているのは日本でここが唯一ではないかと思われるこの外国語講座、このたび6回を終えました。ボラチームとしても語学講座の開催は、初めての試みでしたが、毎回7、8名のメンバーが参加し、アフガニスタンの公用語を学ぶ機会となっています。
全体2時間のうち前半で、ボラチームメンバーである日本人の講師(役)から基礎を学び、後半はスカイプでアフガニスタンとつないで、現地スタッフのアフガニスタン人の講師(役)から、実際の発音を学ぶというスタイルをとっています。
実際に現地のアフガン人スタッフとやりとりをすることで、ネイティヴの発音を知ることができ、また基本的なフレーズを定着させることにも役立っています。
学習内容としては、簡単な挨拶や自己紹介、基本的な文法、日常生活で使いそうなフレーズを学び、メンバー同士ペアを組んで発音の練習をする、というのが主なスタイルとなっています。アフガニスタンで現在流行している音楽の歌詞などから、パシュトゥー語を学ぶこともあります。
(↑現地スタッフとスカイプでつないで発音練習。)
この講座の持つ意義としては、ボラチームメンバーの活動の場の提供の他、語学習得を通しての異文化体験とアフガニスタン独自の文化への理解を深めること、また、アフガニスタンと日本との定期的な草の根交流、すなわち「Don't forget Afghanistan(忘れないでアフガニスタン)キャンペーン」の一環としての役割、アフガニスタン人とのコミュニケーション体験などが挙げられます。このように、単なる語学習得にとどまらず、メンバーが集う機会や異文化交流を提供する場としての役割を果たしています。そしてこれらを実現させ、活動を支えているのはメンバー一人一人の熱意と主体性です。
昨年(2016年)7月に、スタッフによる現地出張報告会があり、その際に現地スタッフのサビルラさんからビデオメッセージをいただいたことがきっかけで、私はスタッフと相談して彼にお礼のメッセージを送ることにしました。その際に、サビルラさんより「サラーム」(こんにちは)や「デーラマナナ」(ありがとう)といったパシュトゥー語を教えていただきました。当時はちょうどボラチームの活動が少し途絶えがちになっていたこともあり、私は思わず「サビルラさんを講師として、ボラチームでパシュトゥー語講座を開催するのはどうか」と彼に提案してみたのです。すると彼は二つ返事で快諾してくださいました。当初は予想だにしていなかった展開でしたが、アフガニスタンと日本とが草の根の交流をする絶好の機会であると感じ、私はこの話を進めることにしました。
この講座の大きな特徴は、アフガニスタン人が講師を担当することによって、日本人であるボラチームのメンバーが「教えられる」立場となるということです。日本がアフガニスタンを支援するという形が目立ちますが、この場合は我々の方がアフガニスタン人によって支援されているといっても過言ではありません。ここには本来の人間のあり方、すなわち、お互いがお互いの足りないものを補い合って生きるという人間同士の対等なあり方が実感されることになります。
実際の国際協力の現場では、日本のスタッフと現地の人々とが協力し合いながら様々なプロジェクトを実現させていることでしょう。一方で、表だって見える形としては、日本がアフガニスタンを支援するという、一方向的な支援の形です。しかしこのパシュトゥー語講座では、サビルラさんを講師とし、彼から我々が教えてもらうというスタイルをとっています。こういった「日本人が支援される」構造を、講座の中に仕組みとして組み込むことによって、本来の人間同士の相互援助のあり方が、目に見える形として実現されています。
今アフガニスタンは最も厳しい状況に置かれていると聞きます。人々の間に希望を見出しにくい状況が広がりつつあります。しかし希望とは本来、物資的豊かさなどの外的な状況によってのみ規定されるものではなく、人と人との豊かな交流の中から生み出されるものではないでしょうか?
日本とアフガニスタン、種々属性の違いはあれど、同じ人間として共有できる感情体験はたくさんあるのだということをこの講座を通して私たちは経験しています。笑ったり、喜んだり、驚いたり、気遣ったり。そういったところは何も変わらない。そして、サビルラさんは、厳しい毎日を送る中でも、このパシュトゥー語講座をとても楽しみにしているそうです。忙しい中でも時間を空け、毎回欠かさずに役割を果たして下さっています。我々にとって、サビルラさんは講師役として欠かせない存在でありながら、我々自身も、大変な毎日を送る彼にとっての支えとなっているのであろう、と推測します。そして、このような「自分の存在が誰かの役に立っている」という体験こそが、人々に生きがいや生きる喜びを与えるのではないかと思います。
アフガニスタンがこれからどのような厳しい状況に入っていくとしても、我々がここで交流したことの蓄積が、今後厳しい状況に立ち向かっていくサビルラさんたちを支える原動力となるということを私は確かに信じることができます。希望は外側にではなく、人の内側に創られるものであり、それはこのような、生身の人間同士が対等な交流を生きることによって、培われるものではないかと思っています。
(ネイティブスピーカーともスカイプでつながる、ここでしか受けられないレッスンです!)
白川 麻子 (JVCアフガニスタンボランティアチーム)
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