YVO代表サビルラ氏来日報告
2019年11月、JVCアフガニスタンの現地パートナー団体、YVOの代表を務めるサビルラさんが、アジア宗教者平和会議(ACRP)さまのご支援により、来日して各地で講演会を行い、多くの皆さんとの交流が実現しました。サビルラさん初め現地のスタッフは今、緊迫した状況の中で、ピース・アクションと識字教室に取り組んでいます。
(来日したサビルラさんを出迎える)
JVCアフガニスタンのピース・アクションは2017年度に開始しました。当時からアフガニスタンでは外国軍の撤退が進むとともに、政府軍・外国軍と反政府勢力「タリバン」との戦闘が拡大していました。2015年ごろからは「IS」を名のる勢力もメディアを巧みに使って影響を強めており、また各地有力者の再武装化なども見られ、戦闘によって民間人犠牲者の増え続けると同時に、人々が武装グループの巧みな勧誘、洗脳を受けている状況に懸念が強まりました。
1979年からのソ連侵攻、内戦、タリバン政権の圧政、対テロ戦争...とあまりに長い年月、紛争が続いてきたアフガニスタンでは武器や暴力が蔓延する環境が作られてしまいました。子どもや若者たちにもその影響は及び、戦闘行為に加担させられている状況があります。武力・暴力で対抗すれば、負の連鎖は止みません。家庭や地域での平和・非暴力の学び合いの必要性がより一層高まっているこのような現況を鑑み、JVC現地スタッフ(当時)の一人、サビルラさんが平和の取り組みを日本側に提案したことからピース・アクションが始まりました。
アジア宗教者平和会議の皆さんは、現地主導で始まったこの取り組みを2018年度から支援してくださっており、日本人担当者が、厳しい環境にも関わらず現れ始めている平和な地域づくりの成果を報告した際に、「ぜひともこの活動を実際に行っている本人から直接話を聞きたい!」と大変に共感してくださったことから、今回のサビルラさんの招聘が決まったのです。
11月20日、立正佼成会の第二団参会館8階研修室にて、一般に開いた講演会を開きました。
講演会は二部制で構成し、第1部では、活動報告として、アフガニスタンでの『平和教育と地域住民による平和の取り組み』を、第2部ではこの活動に着手するに至ったサビルラさんの半生と、JVCから独立して現地NGOを設立するに至った個人的な話を共有する場を設けました。
第1部では、現在JVCとYVOが共同で実施しているピース・アクションの進捗を報告しました。武装グループは、プロパガンダを使って若者を勢力に取り込もうと、洗脳などで影響力を強めています。そのため、彼らが暴力に取り込まれないよう、地域の若者らと平和の学び合い進めています。村の長老たち、母親、教員たちの協力も欠かせません。
(活動報告をするYVO代表サビルラさん)
(2019年4月から、JVCアフガニスタン事務所が現地法人化し、YVOとなりました)
(青少年への働きかけに力を入れています)
(社会のあらゆる立場の人が、それぞれ役割を担います)
サビルラさんの半生に焦点をあてた第2部では、他の何百万のアフガン人と同じように、壮絶な紛争時代を生きてきた彼のライフ・ストーリーが紹介されました。彼の少年期のアフガニスタンはソ連侵攻と激しい内戦の時代。難民生活を余儀なくされ、周りの大人たちも皆武器を持ち、戦いが日常という環境で育ちました。「若い頃にこよなく愛していたもの2つ。クリケットと、武器」とサビルラさん。彼自身も"武力"の信奉者であった過去が語られました。
(まさに戦争の中を生きる少年・青年時代)
そんな彼の考え方に変化が生まれるきっかけは、ひょんなことからJVCに入ったサビルラさんに、当時の現地代表だった日本人のスタッフが言った言葉だったそうです。「サビルラ、君もアフガニスタンの平和のために、役割が果たせるんだ」。"...アフガニスタンの平和?政治家でもない自分が何ができるというのか?" まだこの時点では、メッセージを深く理解していなかったサビルラさんはその後、JVCという一切の武装をせずに地域の人々と信頼関係を築くことによって安全を守るNGOで働く中で、『対話のちから』の重要性を痛感していきます。
(『武力の応酬では平和は訪れないことは、終わりなきアフガニスタン紛争を見ていて気づき始めた。対話の力を信じたい。』)
そして、アフガニスタンの平和を目指す中で、"まずは最も身近なところから"と、自身の家庭内で平和教育を行うようになりました。難民生活の少年のときに、周りの大人たちが戦争での手柄を語るのを聞いて銃に憧れていた自分自身を振り返りながら、子どもの頃からの家庭内での、一番身近なところでの平和教育こそが、世界平和に欠かせない地道な取り組みの第一歩なのだと、実践しています。
(自宅で家族と始めた"平和教育"イベントは、回を重ねるごとに反響を呼び、参加者が増えていきました)
彼のこの自主的な平和の取り組みが、現在JVCとYVOが協同で行うピース・アクションの原点となりました。日本に住んでいると「テロ」や武力攻撃による残酷な状況ばかりが報道され、アフガニスタンのネガティブなイメージが先行してしまいますが、来日が叶ったおかげで、厳しい状況の中で、命を懸けて日々、人々に平和のメッセージを伝えるべく奔走しているアフガン人の姿を直接お伝えすることができました。
この講演会に参加した方からは、このような感想をいただいています。
『期待以上の内容で非常に感銘を受けております。昨今ではアフガンの情勢はメディアでも、それほど報道されていない印象がありますが、改めて現地での厳しい状況を耳にすると非常に心を痛めます。そうした厳しい状況で日々何とかして状況を改善していこうとするサビルラさんの精力的な活動や武力でなく対話で紛争等の問題を解決する姿勢には頭が下がる思いです』
『アフガニスタンの状況の複雑さを知り、なんとも言えない気持ちになりました。しかし、その中でも活動されているサビルラさんや、団体の存在を知り、これだけの想いがある方がいる国なら大丈夫だと、最後は希望を持つことができました』
『特に私は、非暴力による対話の大事な事、身近な場での実践が大事なことを痛感いたしました。特に家庭における教育の大事な事、お母さんの役割の大事な事など大変共感することが多かったです』
この度はACRPのご招待で日本に行くことができたこと、まずは心から感謝申し上げます。講演会の前日にも、スタッフの皆さんとお話する時間があり、そこで特に「家庭教育」の重要性について、大きな共感を得られたことは自分にとっても励みとなりました。平和を知らない世代の自分が暗中模索のように始めた平和の取り組み。これを評価してくださいました。
実は私自身は、大学を卒業したのはほんの数年前です。テクニカルな教育というものはおとなになってからでも十分学ぶチャンスがあるけれども、平和の心を育み、暴力にNO!と言える精神を培うのは子どもの頃から必要なこと。今、小さな子どもまでもが、武装グループに取り込まれています。誰も、他人を攻撃したいと思って生まれてくるわけではなく、育った環境がそうさせるものです。だから家庭での教育が大事だと考えています。私は、人間として"真に必要なもの"は国や民族で変わらないと思います。だから、お互いから学び、支え合いたい。
軍需産業や国内外での戦争...。世界が直面している問題は、人間が作り出したものであり、人間が解決すべきものです。そのためにはクリエイティブにならなくてはいけないし、個人ではなく社会的な取り組みを模索しなければ膨らむ課題に追いつけません。多くの人が参加し、本来こんなにも美しい世界を破壊する力に対して、声を挙げること、"Your Voice*"、これが大切です。
(*)サビルラさんが代表する団体の名前。YVOはYour Voice Organizationの略
講演会でサビルラさんが言いました。"I believe in dialogue. Everyone can play a role for peace."(対話の力を信じています。誰しもが、平和のための役割を担うことができます)これは強い信念を持ち、アクションに移せる実践者の彼だからこそ言えるセリフでしょう。サビルラさんとその仲間たちが立ち上げたNGO、"Your Voice Organization"を、日本からもさらに多く人々が支えていければと、私も発信を続けます。
アジア宗教者平和会議の皆様による、活動への支援と、日本へのご招待という素晴らしい機会をいただきましたこと、そして平素からの精神的サポートと連帯に、改めて御礼申し上げます。
(ACRPの皆さん、講演会にお集まりいただいた皆さんと記念撮影)
※東京での講演の後、沖縄にも赴きました。また、いくつかの取材も受けました。
琉球新報
「武器を捨てて対話を」紛争が続く中で育ったサビルラさんが講演
QAB琉球朝日放送
第9回沖縄平和賞受賞団体 副知事表敬
毎日新聞
「私は変わることができた」元タリバン支援者が進める平和教育 中村医師に思い寄せ
加藤 真希(アフガニスタン事業担当)
高校生の時にラテンアメリカの情熱的な雰囲気に漠然とした憧れを抱き、同時にその地域の格差や貧困の状況に関心を持つ。大学の交換留学をきっかけにメキシコに何度か長期滞在し、先住民族地域でフィールドワークを行う地域開発学や、都市部のスラム地域での支援活動を経験する。その中で直面する圧倒的な格差の存在や、子どもたちが成長するにつれ夢を持つことが制限されていく社会構造をどうしたら改善できるのか悩む。大学在学中にJVCの調査研究・政策提言インターンを経験して以来、"国際協力"と"NGO"の世界に足を踏み入れる。メキシコから帰国した2012年度から現職となり、東京をベースにアフガニスタンにいる仲間たちと日々連絡を取り合いながらイスラムの世界やアフガニスタン情勢を勉強中。
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