REPORT

パレスチナ

幼稚園の先生たちの夏休み

ガザでも学校が夏休みに入りました。ビーチには、国連の旗を立てた大きなテントがずらりと並んでいます。子どもたちの心理ケアの必要性から、今年は前例がないくらい大規模なサマー・プログラムが組まれているとのこと。ガザの海岸沿いを車で走ると、確かにバスでやってくる小学校の子どもたちや、また家族連れで日が暮れるまでビーチでのんびりと過ごす人々が見られます。道端では、焼きとうもろこしを売るミニ屋台や、新鮮な魚を売る人の姿も。

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(ガザのビーチで魚を売る親子)

しかし一部の地域では、汚臭が漂うところもあります。「この辺の海は“黒”だよ」と運転手さんは笑いました。ガザの中心部でも、明らかに海岸沿いの海が濁っているのがわかります。発電に必要な燃料の不足から、今も電力不足が続くガザ。ガザ市内でも一日約6時間の停電が起きているそうです。電力が足りないことから、また汚水処理施設の修理等に必要な部品が入ってこないことから、汚水処理施設は十分に稼動することができず、一部では汚水が海に垂れ流しになっている状態が続いているとのこと。「せっかくガザにはきれいな海があるのにね」と、私もあまりの悪臭に、一部では車の窓を閉めざるを得ません。

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(夕方になっても、ビーチには家族連れがいっぱい。空には凧も舞う)

さて、JVCが栄養強化牛乳とビスケットを園児たちに配布している幼稚園も約3ヶ月の長い夏休み。この期間を利用して、このプロジェクトに関わる全ての幼稚園から1人ずつ先生が参加し、地域ごとに分かれて、先生たちのトレーニングが行われています。ガザでは、30の幼稚園から先生が参加。栄養、心理ケア、救急法、公衆衛生についての集中コース・6日間です。この日は「栄養」に関するトレーニングの日。私も参加させてもらいました。

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(栄養についての講習。先生たちが真剣に耳を傾ける)

栄養のバランス、また栄養の一日の中での採り方(タイミングやバランス)、「カルシウムは歯の健康に欠かせない」など栄養素について、実際に食材を見せながら、講習が行われました。一通り学んだ後、「理想的な朝食、昼食、夕食の献立を考えてみましょう」ということになり、先生が1人ずつ前に出てきて、「朝は、パンと、紅茶と、トマトと…ああ、フルーツもいるわね」と、バランスのよい食事を書いていきます。「チョコレートはいつ食べるの?」などの質問に笑いながら、のんびり講習を聞いていた私でしたが、「では、今日は日本の人が来ていますから、ヘルシーと言われる日本の食事について聞いてみましょう」と、“白羽の矢”が立ってしまいました。

「日本ではパンも食べますが、私の家族は基本的に3食ともお米です。朝からお米も魚も食べます」と言うと、30人から驚きの声!朝からお米、まして魚なんて考えられない様子。「でもお米は炊くだけで、油は使いません(パレスチナのように)。魚も塩焼きで、油は使いません(パレスチナのように…)。それから、緑茶に砂糖を入れるなんて、あり得ません(パレスチナでは紅茶にたっぷり砂糖を入れます)」と言うと、「だから日本人は長生きするのねえ」なんて反応も。「私たち、朝食に何を食べるかなんて、普段は気にしないの。だけど一日の始まりにしっかり栄養を採る大切さを、先生たちはあなたから学んだと思うわ」と、このプロジェクトのコーディネーターの女性が言ってくれました。

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(理想的な朝食の献立を考える先生(右))

このトレーニングには各幼稚園から1人の先生が参加しますが、この先生がしっかり学んで、幼稚園では他の先生たちに教えるとのこと。参加した先生たちの「楽しかったわ!これで私も痩せるかしら?」という冗談のような声に、「パレスチナのおいしい食事のせいで、私は体重が増えちゃったのよ」と返す私。わっと先生たちの間に笑いが広がります。楽しみながら学ぶことが一番。先生たちが学んだことが、さらに子どもたちの栄養状態、健康状態の改善へと繋がることを期待したいと思います。

今や全体で25,000人もの幼稚園児が、このプロジェクトで毎日、牛乳とビスケットで栄養を採っています。このたび、5月に行った血液検査では、とても嬉しい結果が出たようです。「去年の10月に、サンプリングで血液検査をしたの。その時は貧血症にある子どもが40%近かったのに、同じように5月に血液検査をしたら、19%にまで減ったのよ」と、このプロジェクトの担当のモナさんは嬉しそうに言いました。

イスラエルによる大規模な侵攻、続く封鎖による食料不足、貧困状態の悪化など、厳しい状態が続いていたにも関わらず、栄養失調の子どもたちが減ったのです。これは、先生たちの頑張りも影響しているでしょう。この夏休み期間中には、25,000人全員の血液検査ができないか、現在検討中です。新学期に、より元気になった子どもたちと会うのが楽しみです。

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(幼稚園の子どもたちが、牛乳とビスケットの箱で作った汽車のおもちゃ)

執筆者

福田 直美

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