REPORT

パレスチナ

ガザ ― 封鎖の中も生きる“人間力”

ガザに行くといつも感じることがあります。「人々のこの逞しさはどこから来るのだろう」ということ。

ニュースの画面には、今も瓦礫に囲まれて生活する人々、食べるものがなく途方に暮れる人、仕事がなく落ち込んでいる人ばかりが映されます。人々の表情は、「巨大な刑務所」とも表現されるガザで生きることの辛さを語ります。悲惨な光景が映し出され、パレスチナの人たちからは、そんなニュースを見るのにも「疲れた」という声すら聞きます。

ガザの人々がいかに逞しく生きているか、その姿は残念ながら伝えられることはほとんどありません。しかし、ガザの人々は言います。「私たちが欲しいのは施しではない。私たちは物乞いじゃない。どんな状況であっても、できる限り自分たちの力で生きていこうとしている姿を知って欲しい」。今日は、多くの家屋が破壊されたガザで、建築分野で頑張っている人の姿、取り組みをご紹介します。

ガザを訪れた9月半ばのこの日、現地視察の間の時間に、「画期的な方法で作られた家があるの。ガザで手に入る材料だけを使った、とても素敵な家。新しい試みとして第一号が作られたところなのよ、見に行きましょう」と友人に誘われ、その「画期的な家」を見に行きました。

「すごい!こんなに素敵な家が作れてしまうの?」

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(新しい試みで立てられた家。)

正直、“一目惚れ”してしまいました。このレンガで作られた小さな家は、ドーム状の屋根やアーチ状の柱、木製でカーブを描く窓のサッシなど、デザインがとても素敵です。「鉄鋼を使わなくても強度が保てるように、アーチは全て計算されています。例えば、このアーチ状の柱は、この天井のカーブと壁を支える構造になっているのです」「このレンガは、家の外の温度を遮断する保つ機能も持っている。だから冬は寒くならず、夏は暑くなりません」と、この家の建設に関わったイマッドさんは説明してくれました。

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(アーチが壁と屋根を支える構造について、イマッドさん(右)から話を聞く。)

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(中の様子。高い天井に、明かり取りの窓で室内はとても明るい。)

セメントでじめじめとした味気ない家を作るよりも、費用も安く済むそうです。この家の質、費用、そして材料がガザで手に入るという利点から、国連機関が建設する家を失った人々のための住居が、この住居になるかもしれないそうです。

ガザには、エジプト産のものが溢れています。食料品や日用品だけでなく、セメント、車の部品、冷蔵庫や洗濯機などの電化製品まで、一見「物が入ってこないって?」と疑問に思ってしまうような光景もあります。しかし、それらエジプトからトンネルを経由してきて入ってきたであろう物資は、すべて高額。タイヤ(4本)は、以前は250シェケル(約6,300円)だったのが、今は600NIS(15,000円)。セメントも、以前は50kgで20シェケル(500円)程度だったものが、今は倍以上の価格です。冷蔵庫などは、3,000〜4,000シェケル(7,5000〜100,000円)もするとのこと。いまだ失業率が高いガザで、それらが購入できる人はほんの一握りしかいないのです。材料がガザで手に入るこのレンガのおかげで、費用が抑えられるということも納得できます。

材料となるレンガは、そのすぐ隣で作られていました。「砂も、強度を高めるための材料も、全てガザで手に入るものです。これは、泥をこねて作ったレンガよりも何十倍も強い素材なのです。水分もほとんど吸わないことが、テストで証明できました」と、材料について説明してくれた技術者の男性の表情は少し嬉しそう。レンガをつくる機械も、ここで作られたのです。

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(泥を固めて乾燥させただけのレンガは、弱く崩れやすい。)

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(奥に見えるのが、レンガを作る機械。この機械もお手製。)

「建築のための資材が入ってこない」という問題は確かにとても重要です。しかし一方、ガザの人たちは、泣き寝入りをしているわけではないのです。持っている限られたものでも可能なことを常に考えているのです。創造力溢れたこの家には、あたたかい光が差し込んでいました。「どれだけ可能性を奪われようと、ガザの人々はとても強い“Human Potential”(人間力)を持っている」という友人の言葉が心に残りました。そして、私たちがしていかなければいけないことは、何なのだろうと考えさせられるのです。

イスラエルによる封鎖が続く限り、モノと人のアクセスはほぼ完全に遮断され、人々は例えば仕事をしたくても資材が入ってこなかったり、果物などを作っても輸出をすることができません。たとえやる気があったとしても、それを発揮することができないのです。長く続く封鎖は、復興と開発を妨げるだけでなく、人々が自分達の力で生活していくという可能性も否定し、奪ってしまいます。私たちは国際社会に対して、ガザの人々の声を伝えることで、封鎖の解除の必要性を訴えていかなければいけません。しかし、これから先どれだけ封鎖が続いていくかわからない中、ガザの人たちが「あるもので、できることを」と人間力を発揮してチャレンジする姿勢を、見守り、伝え、応援していくことも必要なのではないでしょうか。

執筆者

福田 直美

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