いちNGO職員として思うこと
パレスチナ・西岸地区でユダヤ人入植者が行方不明になった事件から今日まで、ガザ地区では3週間以上にわたり、毎晩のようにイスラエル軍による空爆が行われ、死傷者が多く出ています。私のこれまで会ってきた子どもたちの泣き叫ぶ声がすぐそこに聞こえるように感じながら、エルサレムで毎日を過ごしています。
そうした情勢の中、日本大使館から、「ガザに行くのはしばらく控えてほしい」という要請がありました。その要請は当然だと思いましたが、私はつい、「いざとなったら安倍さんが自衛隊を出して助けてくれるから大丈夫ですよ。日本政府はそういう決定をしたんですよね?」という嫌味が口から出そうになり、こらえました。
安倍内閣は昨日(7/1)、集団的自衛権の行使を可能とする閣議決定をしました。その理由付けの一つは、他国で危険に遭っているNGO職員を自衛隊が助けるため、というものでした。
でも、本当に自衛隊は助けに来るのでしょうか? もし私がガザで誘拐されたとしても、あるいは空爆の中で脱出できなくなったとしても、自衛隊は助けには来ないのでは?と思います。なぜなら、どの国であっても、よほど自国の利益にならない限り、他国の軍隊が自分たちの領土・領海に入ってくることは認めないからです。すでに戦争状態になっていて、その国の政府が破綻でもしていない限り、自衛隊は助けには来られないのです。
他方で、他国の反対を押し切ってもし本当に自衛隊が私を助けに来たら、どうなるのでしょうか。軍隊は、凶器です。だから、自衛隊が救出に向かった先で、それに反発する民兵や一般の人々を殺す可能性は大いにあります。殺すという行為が、軍隊にとっては「自衛」の一部になりうるからです(中東で恨まれている米軍と一緒に来れば、その危険性はさらに数十倍になるでしょう)。誘拐された私は、地元の有力者との交渉や駆け引きで救出できる可能性があったかもしれませんが、この自衛隊の行動の結果として交渉の余地なく殺されるかもしれません。そして、自衛官たちも戦闘の中で殺されるかもしれません。さらには、自分たちを攻撃した国として恨みを買い、その国やその同盟諸国に「自衛権」を行使され、日本国内に住む無実の人々が攻撃される可能性だって否定できません。戦争とはそういうものであり、日本が今のところ安全なのは、国家が武力で守っているからだけではないのです。
そして、自衛隊が派兵されればその後に起こるのは、【1】自衛隊が戦闘に巻き込まれ日本人を救出せずに逃げる(その場合は、あとに残された日本人の命は保証されません)、【2】救出しようとした日本人と一緒に拘束される、【3】自衛隊が反撃して泥沼の戦争になる、【4】自衛隊が大活躍して、誰も殺さず、誰も死なずに救出が成功する、のいずれかでしょう。でも、【4】はありえません。民間では救出に行けないぐらいに危険な場所だからこそ、自衛隊が日本人を救出に行く意味があるからです。他方、【3】が起これば、双方がこれ以上死者を出せないというところに行き着くまで、報復の連鎖が続き、誰もコントロールできません。戦争とはそういうものであり、武力を使って「自衛」するとはそういうことだと思います。
今回の閣議決定は、要するに、日本政府が自国の利益になると思った場合だけ自衛隊を派兵し、そうでない場合は何もしないという決定です。海外にいる自国民の安全を本気で守るのであれば、どんな犠牲を払ってでも行かなければいけません。でも、安倍首相の発言内容は、絶対に派兵するというではなしに、時の政府の解釈によって派兵を決めるということでした(どういう本当の意図があるのかは、秘密保護法があるので秘密のままでしょう)。だから、NGO職員の安全は、私の安全は、国が自衛隊を派兵するための言い訳にしかならないということです。
空爆と死が日常となってしまっているパレスチナの地で働く者として、今回の決定は非常に悔しく、正直これから何が起こるか分からず怖いです。万一自分がガザ地区でどこの誰とも分からない集団に誘拐されたら、助けて欲しいと心の底から願いながらも、遺書には「自衛隊だけは派遣しないでください。ガザの人々も、日本の人々も、傷つけるようなことはしないでください」と書くしか方法はないと思っています。でも、私の遺書は、憲法ではないですから、内閣の決定を覆す力はありません。時の政権が、「お、NGO職員が誘拐されたか。ちょうど派兵したいと思っていたし、米国とイスラエルからの要請もあることだし、派兵の方向で進めるか」と決めれば、それで終わりです。現地のNGO職員たちはさらなる危険にさらされ、自衛官や日本の人々までも危険にさらされ、日本の平和国家のイメージは破壊され、東アジアの情勢はなお一層不安定化し、日本は一層危険な場所となるでしょう。
日本から遥か遠いエルサレムではありますが、私の耳には、集団的自衛権に関する安倍首相の説明は、そういう風にしか聞こえませんでした。
今野 泰三 (パレスチナ現地代表)
大学在学中に明け暮れたバックパッカー旅行。その道中、カンボジアで内戦の記憶と開発のひずみの中で苦しむ人々と出会い、シリアでパレスチナ難民から祖国への思いを聞き、ロシアの空港ではどこにも行けない無国籍のガザ難民と夕食を共にした。無数の出会いに背を押され、01年よりJVCボランティアチームに参加。英国留学、シンクタンク勤務、エルサレム留学、大阪での研究員生活を経て12年より現職。パレスチナで見たもの聞いたものを日本の皆さんと分かち合いながら、世界の「希望」「幸せ」を少しでも増やせるよう一緒に考え行動していきたい。
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