パレスチナ:占領という不正義
今日、東エルサレムの学校保健事業が夏の間に行うサマーキャンプの最終日だった。300人の小中高校生が集まって、思い思いに自分の発表を行う。歌ったり踊ったり、劇をしたり詩を読んだり。閉会式は熱気に満ちていた。一つ一つの発表がとても情熱的で、創造的で、感極まるものがあった。
東エルサレム事業サマーキャンプ閉会式で発表する子どもたち
しかし、はたと気づくと、どれも「占領の不当」を題材にしたものばかり。小学生がイスラエル兵に扮し、検問所で、片方のパレスチナ人役の子どもを脅す。手にはオモチャのマシンガンがあり、横柄な態度でパレスチナ人を一掃する。そういう劇があった。また、悲しみや不当を歌にのせて熱唱する子、創作ダンスで表現する子どももいた。これらを見ていて、パレスチナ人の子どもたちにとって、占領は生活と切っても切り離せない現実だと改めて思い知らされた。
同じ年頃のイスラエル人の子どもは、はたしてどこまで同じ年頃のパレスチナ人が寝ても覚めても占領と隣り合わせで生きている事を知っているだろうか? 良く耳にすることだが、イスラエル人にとってパレスチナ問題は、イラン問題や内政問題と同じく、問題の一つでしかないと言う事。ガザで2,000人以上がイスラエル人の手により殺害されても、そのうち400人が罪なき子どもでも、遠い国の出来事で済まされる。私もエルサレムに住んでいるので、ユダヤ人地区に度々足を運ぶ。町並みはパレスチナ人居住区と違って、ヨーロッパ風で、カフェがあって、若者たちは夜遅くまで飲み明かしている。このガザ戦争の間でもそうだ。自分たちとパレスチナは関係ないかのように、イスラエルの日常はいたって平和そのものに見える。
8月21日、東エルサレムの村でイスラエルによるパレスチナ人宅の家屋破壊があった。ガザに注目が集まる中、占領は東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区で間違いなく拡大している。何十年何百年と住んでいた人の家を破壊し、追い出す。家屋破壊に至る法的根拠は、イスラエルの住宅に関する法律で、内容は、イスラエルの政府の許可なくして、家の増築・改築は出来ないというもの。これらを破ったパレスチナ人の家は、破壊され、そこに住むことを二度と許されなくなる。もちろんそれらの許可はパレスチナ人が申請したところで10年は下りないと言われている。自分の土地に自分の財産で家を改築するのに、政府の許可が要ること自体おかしいが、そもそもそれを破ったからと言って有無を言わささずに家屋破壊を行い、退去命令に至るなんて、これを不正義と呼ばずになんと呼ぶのだろう? 1993年のオスロ合意以降、同じような理由で15万戸のパレスチナ人の家が破壊されて、53万戸の入植地の家が建てられた。これらは国際法に違反する行為である。
その前日の8月20日には、東エルサレムのパレスチナ人居住地域で、少年が過激派のユダヤ人に誘拐されそうになる事件がまた起きた。先日ハマースがイスラエルへの武装抵抗に踏み切った一つの理由は、同じ地域でパレスチナ人少年が誘拐され、拷問死させられる事件があったことにもよるだろう。その直前、ユダヤ人入植者3人が誘拐・殺害され、ハマースのメンバーが犯人だとイスラエル政府は断定したが、きちんとした証拠は一切あがっていない。
どちらが悪いのか? という議論がある。イスラエル人も確かに殺されている。しかし、どれだけの人が、パレスチナ人成人男性の、実に4分の1は政治犯として投獄された経験を持つことをご存じだろうか? 証拠もなくとらえられ、裁判なしに何年も拘留される。その傍らで、先日パレスチナ人少年を拷問死させた過激派のユダヤ人3人は、最終判決が出るまで釈放された。この状況は、どう考えても平等だとは言えない。正義とは何か? この地にいて、それを考えない日は無い。
金子 由佳 (パレスチナ現地代表)
2011年、国際政治学部・紛争予防及び平和学専攻でオーストラリアクイーンズランド大学大学院を卒業。直後にパレスチナを訪れ、現地NGOの活動にボランティアとして参加。一ヶ月のヨルダン川西岸地区での生活を通じ、パレスチナ人が直面する苦難を目の当たりにする。イスラエルによる占領状況を黙認する国際社会と、一方で援助を続ける国際社会の矛盾に疑問をもち、国境を越えた市民同士の連帯と、アドボカシー活動の重要性を感じている。2012年6月よりJVC勤務。同年8月より現地調整員ガザ事業担当としてパレスチナに赴任。JVCのプロジェクトを通じて、苦難に直面する人々と連帯し、その時間・経験を日本社会と共有したい。
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