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パレスチナ

ガザの声「みんな事業の再開を希望しています」

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13日のビルナージャでの会議の様子

ガザ現地では7月中旬から行っている緊急支援に加え、着々とJVCのガザ現行事業である「ジャバリヤ市ビルナージャでの母子栄養失調予防事業」を再開するための準備が進んでいる。
事業は7月の空爆直後から現在まで一時中断せざるを得ない状況であったが、先月末に合意された長期停戦後は、10月中旬を目途に活動を再開したいと、現地スタッフと話し合っていた。

9月13日土曜日、事業地のボランティアさん30人と、JVC現地パートナー市民団体であるアルド・エル・インサーン(AEI:人間の大地)スタッフ4名が、停戦後初めて意見交換のために一同に会した。

「どんな追加活動が必要か?」、「戦争中はどうだったか?」、「子どもやお母さんたちは大丈夫か?」、「これから何ができるか?」、AEIコーディネーターのアマルの話では、具体的な話を交えながらの意見交換会は熱気に満ちていたようで、事業担当者として会合に参加できなかったことが悔しくもあるものの(9月13日の時点でJVCスタッフへのイスラエルからのガザ入域許可が下りていなかったため)、電話でその話を聞いてとてもうれしくなった。

「みんな事業の再開を望んでいます」。アマルは私にもその意志を確認するかのように、そう電話口で言っていた。完全復興には20年もかかると言われている現地で、戦争直後にもかかわらず他者を気に掛け、直向きに仕事に励む事業スタッフやボランティアさんたちの姿勢が、私には1つの希望のように聞こえた。

現行事業は母子の栄養失調予防に特化している活動のため、子どもの栄養状態検査や、お母さんのための栄養教育を活動の柱としている。しかし戦争の直後で、現地の状況とニーズが変わっているところもあり、JVC-AEIチームでは、栄養失調予防の活動に加えて、必要と思われる活動を追加的に行う事を検討している。
今回の会合で、真っ先に検討されたのが、精神ケアに関連する活動の追加投入だ。13日の会合では、参加したスタッフとボランティアの誰もがその必要性を口にしたと言う。プロからのカウンセリングは勿論、子どもを対象とした「お楽しみデー」の実施、スタッフ自身へのカウンセリングもそれに入る。

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風船に泣き顔を描く女の子(この子の目の前で父親と弟が殺された)

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同じ女の子が書いた絵。父親と弟が殺された時の様子

ガザの人口の半分を占める子どもたち、或いは大人たちも、今回の戦争では大きな精神的ダメージを受けている。未だガザに入れていない私ですら、現地の人と電話で話をしたり、写真を見たりするだけで、今回の戦争が人々に与えた精神的ショックは、前回の2012年11月の物とは比べ物にならない程甚大だと感じている。写真を見ても、とにかくガザの人々のトレードマークである笑顔がない。

笑っている人の眼の奥にも、深い疲労が見える。スタッフと電話で話していても、日々の感情の起伏が激しく、泣きながら電話してくるときもあったり、ひどく明るく話している時もあったりする。

ガザの人は戦争中、スタッフも一般人も、子どもも大人も関係なく、目の前で家族が殺されたり、バラバラの死体を見たり、家が壊されたり、いつ自分も殺されるかわからない中、眠ることもできず50日過ごした。
また、荒廃した街を日々目にしながら、いつごろ完全復興されるのかも分からない狭いガザの中で生き続けなければいけない。失ったものがあまりに多く、それでも強く生きなければならない厳しい現実の中で、精神的な混乱が生じるのは当然のことだ。
これについて、今後は特に精神ケアを専門的に行うNGOとの協力も検討しながら、活動詳細を決めて行きたいと考えている。

また、こうした精神ケアに加えて、事業の再開後は、栄養失調に必ずしも関連しない疾病への診療や医療品の配布もしたいという意見も出た。特に上下水道設備が脆弱なガザでは、戦争中の関連施設の破壊という被害も加わって、衛生状態の悪化が深刻化しており、子どもの下痢、眼病、皮膚病が増えている。結果それらを治療するための医薬品が必要とされていて、JVC-AEIチームでは、栄養失調予防に加えてこれら医薬品の配布も行いたいと考えている。

実際事業地におけるニーズがどれ程の規模で、JVCの予算内でどこまでサポートできるのか?まずは地域訪問をしながら詳しく見ていく必要があるが、緊急に必要なニーズでもあり、地域訪問と医療品の配布を同時に行う必要もある。試行錯誤しながらだが、現地スタッフと協力して、効率的な方法を取りたい。

このような中、9月15日夕方、金子のイスラエルからのガザへの入域許可が下りた。8月初旬にエルサレムに戻った直後に申請したが、今回許可が下りるまでにずいぶんと時間がかかった。私自身、首を長くしてこの時を待っていた。5月末以来の3か月半ぶりのガザ訪問になる。変わり果ててしまった現地、久々の同僚・友人との再会、複雑な心境でもあるけれど、いよいよだ。次回の現地便りはガザから書きたい。

執筆者

金子 由佳 (パレスチナ現地代表)

2011年、国際政治学部・紛争予防及び平和学専攻でオーストラリアクイーンズランド大学大学院を卒業。直後にパレスチナを訪れ、現地NGOの活動にボランティアとして参加。一ヶ月のヨルダン川西岸地区での生活を通じ、パレスチナ人が直面する苦難を目の当たりにする。イスラエルによる占領状況を黙認する国際社会と、一方で援助を続ける国際社会の矛盾に疑問をもち、国境を越えた市民同士の連帯と、アドボカシー活動の重要性を感じている。2012年6月よりJVC勤務。同年8月より現地調整員ガザ事業担当としてパレスチナに赴任。JVCのプロジェクトを通じて、苦難に直面する人々と連帯し、その時間・経験を日本社会と共有したい。

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