ガザの現実(2)-続く困難
封鎖後のパレスチナ・ガザ地区への3度目の大規模空爆・軍事侵攻の停戦合意が結ばれた2014年8月26日から約半年が過ぎた。JVCパレスチナ事業では、現地で 2014年10月からジャバリヤ市ビルナージャでの子どもの栄養失調予防事業を再開し、またその傍らで2014年12月末まで緊急支援を行った。
2014年10月1日に再開された子どもの栄養失調予防事業活動の様子
「目の前の仕事だけではなく現地便りも書かないと!」と考え続けているうちにあっという間に4ヶ月が過ぎてしまった。ブログを読んで下さる方々には大変申し訳ない。
ガザでは人々の顔から恐怖の色が消えつつある。子どもの顔にも笑顔が 戻り、スタッフやボランティアは日々ジョークを言い合って笑う。しかし、街を見渡すと、域内の状況は相変わらずだ。消えない瓦礫 の山と壊れた家、雨が降ると水没する道、仕事が無い生活、汚れた空気と水。
笑顔が戻った子どもたち
個人的に「人が死なないことはなんと素晴らしいことか」とは思うが、半年たってもいわゆる域内避難民として避難所で生活する人は11,000人(UNRWA2015年)にも及ぶ。
片付かない瓦礫:シュジャイヤ・ワッハ病院前2014年9月及び2015年1月の様子
だが、戦争直後に堰を切って自分の話をしてくれた人々も、苦しい体験を早く忘れ去りたいという思いが強いのか、戦争から2ヶ月ほどで当時の話を避けるようになった。それは「次の戦争まではせめて明るい時間を過ごすのだ」と無言のメッセージのようでもあり、また忘れないとやっていけないと思っているのかもしれない。私もそれに伴って、戦争中の話を聞きづらくなった。
特に苦境を強いられているのは家を完全に壊されたり、家族の大半が殺されてしまったりした人々だ。例えば、栄養失調予防事業の実施地であるビルナージャは、戦争前は他の地域より貧しかったが、今となっては、紛争被害者の生活よりは「まし」な状況だ。
冬になると雨水が流れ込み、多くの家が冠水するこの地域を「まし」と言えるのだから、更に酷い状況に追い込まれた人々の生活は想像するに堪えない。この冬、厳しい寒さに耐えられず、ガザ全体では既に4人の域内避難民等が凍死している。しかもそのうち2人は子どもで、避難所で亡くなったと聞いている。
また破壊された家に住み続ける人は、窓もなく、容赦なく吹き付ける砂と雨と風に繰り返し苦しめられる。急ごしらえのトタン屋根が風で飛ばされたという家もある。また、ガザ内の失業率は5割近くにおよび(UNRWA2015年)、2歳以下の子どもの栄養状態は過去最悪、貧血児が6割にも上るという統計もある(UNRWA2014年)。
見えない将来に不安を抱き、逮捕されるのを承知でイスラエルへ越境しようとする若者、そして逮捕される人々も後を絶たない。事実2015年1月22日~2月4日のわずかな間で37人が越境に試みて、そのうち一人がイスラエル兵に撃たれて怪我をし、7人が逮捕されている(GANSO Bi-Weekly Report)。
「ガザを出たい」、「ガザには未来が無い」と思う人が後を絶たないのは、現地の鬱屈と人々の限界がとうに超えている事の表れだと思う。
事実、ガザの戦争犯罪を問う国連の人権委員会調査団がガザ入りできていない事を受けて、関連の情報を得ようとガザの有名な人権NGOを訪れたところ、副代表からは、それどころではないと言わんばかりの答えが返ってきた。
「ここでの問題はそもそも法律では解決できない。政治でしか解決できない」と繰り返し、私に淡々と言葉を投げかける。「人々を支えるにも限界がある。ICC(国際刑事裁判所)にパレスチナが入ったからって、或いは国連人権委員会の調査団が来たって、ここ(ガザ)の状況や西岸の状況が良くなるわけじゃない」。人権を守ろうとする現地のスタッフの言葉である。
そう言い切っている彼も、ガザでの生活にはうんざりしているのだろうか、かける言葉に詰まる。「パレスチナが国家承認されれば、或いは国連で定められるICCのメンバーに入れば状況が変わる」、こうした人々の期待は、今までずっとあった。
しかし、それを裏切るように現地の状況は悪化するばかりだ。戦争で殺される人も後を絶たない。支援する側もされる側も被害者である場合、支援の意気込み・気持ちの摩耗が避けられないのかとも思う。
ここで踏ん張らないといけないのはJVCのようなNGO、或いは国連をはじめ援助を担う団体・人々である。NGOとしては、関係各国、日本政府への提言は言わずもがな、政治が解決する他無い問題なら、政治に働きかけて、それを変える努力をしなければならないし、また圧倒的な不正義が横行する現実に、どこか遠くの出来事ではなく、当事者としての認識を持って関わり続ける必要がある。
例えばアムネスティ・インターナショナルの話によると、今回の戦争犯罪を糾明するために作られた国連人権委員会の調査委員会委員長の大学教授は、イスラエルからの圧力で辞任に追い込まれたという。こうした事が世界レベルで起き続けることは、国連に加盟する日本と日本人にとっても無関係ではいられない。
また、市民レベルの交流から、現地の人々の孤立を阻止することも大事だ。JVCのガザ事業は多くの団体、個人によって支えられている。ロータリークラブや、仏教やキリスト教をはじめとした宗教グループ、リサイクル活動を基盤にした自助グループ、学生さんや会社員の方もいる。
横浜ロータリークラブ関係者のガザ現地訪問の様子
こうした一つ一つの取組みとつながりが、現地の人に何らかの良いインパクトをもたらすことができればと思い、私も橋渡しとなれるように活動を続けている。
金子 由佳 (パレスチナ現地代表)
2011年、国際政治学部・紛争予防及び平和学専攻でオーストラリアクイーンズランド大学大学院を卒業。直後にパレスチナを訪れ、現地NGOの活動にボランティアとして参加。一ヶ月のヨルダン川西岸地区での生活を通じ、パレスチナ人が直面する苦難を目の当たりにする。イスラエルによる占領状況を黙認する国際社会と、一方で援助を続ける国際社会の矛盾に疑問をもち、国境を越えた市民同士の連帯と、アドボカシー活動の重要性を感じている。2012年6月よりJVC勤務。同年8月より現地調整員ガザ事業担当としてパレスチナに赴任。JVCのプロジェクトを通じて、苦難に直面する人々と連帯し、その時間・経験を日本社会と共有したい。
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