ガザの現実(5)- 戦争と封鎖の影響で、深刻な健康被害が広がっています
ガザは、アフリカとアジアと地中海をつなぐ交易地・中継地として、4000年以上の歴史を持ち、今でも様々な遺跡・遺物が発見されています。英国委任統治時代までは、カイロとハイファとベイルートをつなぐ鉄道も、ガザを通っていました。
(戦争前のガザ地区のビーチ(2012年撮影))
でも、古代文明の栄えた美しい町も、今では水と空気がひどく汚染され、深刻な健康被害が広がっています。
水の汚染は、封鎖下でガソリンが入らず発電ができないため、下水場がきちんと機能できず、溢れた汚水が川や海へと垂れ流しになっているからです。
(下水で汚染されたガザ中部の川)
空気の汚染は、発電機・自動車などからの排ガスに加え、2014年9月の停戦後は、戦争中に破壊された家屋や工場の粉塵が巻き上がっていることにも起因します。屋根に安価なアスベストを使っている住宅が多く、また砲弾やミサイルの破片に重金属など危険な物質が含まれていると言われています。
こうした汚染のせいで、3日間滞在しただけで、風邪をひいていないのに咳が止まらず、頭や胸も痛くなってきてしまうほどです。
例えば、ガザには戦争中から各地に国連の避難所が開設されましたが、狭くてプライバシーがないため、そこを離れ、がれきにあふれる地域に小屋を建てて暮らす家族が増えています。ある家庭では、トタン屋根で雨漏りのする狭い小屋に、乳幼児を含む11人が暮らしていました。子どもたちはみるからに栄養不良で、皮膚のアレルギーもひどく、爆撃後の環境汚染物質によるものではないかと疑われています。
(避難所を離れ、ガレキとなった自宅の敷地で家族と暮らす男の子)
また、ガザ市内の診断センターで病院勤務医からも話を聞きました。
「外科で最近、甲状腺がんをよくみるようになりました。2009年、イタリアの研究者がガザの土壌を分析したところ、重金属が正常の10~200倍も検出されました。重金属とは、クローム、ヒ素、ウランなどです。2008年末のイスラエル軍の空爆・地上侵攻の結果ではないかと疑われています。
直接の原因については土壌調査を行う必要があるのですが、そのための検査器具がガザにはありません。なので、ガザの外に土壌サンプルを持ち出して検査したいのですが、イスラエルがガザの土壌や野菜を外に持ち出すのを禁止しているため、検査することさえできません。
また、2014年の戦争の後、心臓疾患や高血圧が急激に増えました。30、40歳代だけでなく、20歳代でも増えているのが特徴的です。虚血性心疾患、例えば狭心症や心筋梗塞は、2013年と2014年の同じ時期の3ヶ月間を比べると、65~70%の増加が見られます。ストレスが増えたせいだと思われますが、詳しい検査のために心血管撮影をやりたくても器具が足りません。
ガザでのプライオリティはいまだに救急医療にあり、戦後に疥癬が増えたものの疫学調査も行えていません」
(多くの人々が、空爆や砲撃で破壊された自宅に暮らし続けています)
ガザには、こうした健康被害に加え、いつ崩壊するか分からない半壊の家に暮らす人々もたくさんいます。そうした家の一軒で話を聞いた際、住民の男性はこう言いました。
「家がいつ崩れるか分からなくて不安です。特に、イスラエル軍の戦闘機の衝撃波で家が頻繁に揺れるので、それで崩れないかと不安な日々を過ごしています」
停戦後、国際援助でいくつか仮設住宅が建設されました。そうした住宅はトイレも台所もあり一見きれいですが、作りが脆弱で雨天時の水漏れがひどく、漏電することもあり、住民が電気ショックになることもあるそうです。私が仮設住宅を訪問した際、避難民となった住民の方が、状況を次のように話してくれました。
「ここの仮設住宅は、本来家を建てるのは向かない低い土地に作られたため、雨が降るたびに鉄砲水が溢れ、住宅を支える地面がえぐり取られています。そのため、住宅の床が陥没してしまいました。また、夏は暑すぎて冬は寒すぎますし、診療所からも学校からも遠すぎます。ここはイスラエルとの境界からも近いため、ガザの住民が境界の外に逃げないように頻繁にイスラエル兵が威嚇射撃をしてきます。停戦になっても、決して安心して暮らせません」
(仮設住宅に暮らす子どもたち)
こうした厳しい状況の中、JVCパレスチナ事業は、子どもたちの健康と健やかな成長のために支援活動を続けています。復興が進まず困窮するガザの人々へのご支援を、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
今野 泰三
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