燃えさしのタバコで思い出した、東エルサレムの子どもの現実のこと
こんにちは、エルサレム事務所の並木です。
先日、エルサレムの東側(パレスチナ側)にある事務所を出て歩いていたら、私の身体の右横を少年がかすめていきました。思わず「わっ?!」と声を上げてしまいましたが、振り返った彼の手には、私が持っていたはずのゴミ袋3つ。小学校高学年か中学に上がったばかり程に見える彼は、「これ、ゴミでしょ? 捨てておいてあげるよ」と言って、二度と振り返らずにどんどん歩き出し、私は反対にぽかんとして立ち止まってしまいました。
10メートルほど先にあった大きなゴミ入れに袋をぽいと投げ入れて、少年はまたどんどん歩き出しました。念のためにカバンの中の貴重品を確認し、さらに彼がもしかするとゴミ袋の中身を改めるのではないかと思って見ていた私は、ちょっと恥ずかしい気持ちになりました。ごめんなさい。
今更ながら「ありがとう!」と声を上げ、遠ざかっていく彼の背中を眺めているうちに、私は彼の指に挟まっているものに気付きました。燃えさしの、短くなったタバコ。それを、彼は捨てずに指に挟んで歩いているのでした。
優しい少年に似つかわしくないそのアイテムを見て、私は一気に現実に引き戻される感覚を味わいました。
(遠ざかっていく少年)
私たちがプロジェクトを実施している東エルサレムは、パレスチナの中でも生活が厳しいとされている地域の一つです。その厳しさは、この地域がイスラエルの建設した分離壁によってパレスチナ自治区から引き剥がされ、イスラエル行政下に置かれていることに端を発します。
エルサレムにおけるパレスチナ人の人口は30%強。一方で、エルサレムにおいてパレスチナ人たちの居住区である東側に使われている予算は、全体の10%程度に過ぎません。病院の数、学校の教室の数、図書館、福祉施設など、本来は行政が下支えすべき全ての施設やサービスが、東側では足りません。その結果は貧困率を見れば明らかで、東側では75.4%の人々が貧困に喘いでいますが、イスラエル人が暮らす西側では30.8%です。物価も東西で違いますが、それでもエルサレムの住民たちに課される税金は同等です。
東側の教育も、行政サービスの不平等な分配の悪影響を被っています。教室が足りず、学校は午前と午後で二回転制。改善するには1,000つの教室を追加でつくらなければ、この不足を補うことはできないのだそうです。
細やかに教えることができない学校からは、たくさんの子どもたちがドロップアウトします。日本の中学生にあたる9年生で約1割の子が退学し、12年生(高校最後の年)には生徒たちのうち33%が退学します。日本は高校中途退学率が1.5%、イスラエルも1.5〜5.4%であることを考えると、本当に高い数字だと思います。
また、せっかく高等教育を受けても学位に見合う仕事がなく、エルサレムのパレスチナ人たちの約半数はイスラエルである西側へ働きに出ています。西側で良い仕事に就くには、ヘブライ語を学ばなければなりません。私は今、ヘブライ語の夜間語学学校に通っていますが、生徒の8割がパレスチナ人です。「どうしてヘブライ語を勉強しているの?」と聞くと、答えは皆同じです。「仕事で必要だから。ヘブライ語ができないと、生活は苦しいんだよ。」
落第しやすい環境、そして学校を卒業しても地元には仕事がない現実。それなら、と学校をやめて働きに出る子どもたちもいて、彼らは大人社会の慣習に染まっていきます。
その夜、「タバコを吸っていた子どもがいてね...」と顔見知りのカフェのおじさんに話したところ、彼からはこんな言葉が返ってきたのでした。
「気晴らしになるものが、他にはないんだよ。じゃぁ、こんな環境に生きる彼らが、何をすればいいっていうんだ?」
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