なぜ大人になっても少年ぽさが抜けない?パレスチナ人男性たち
「パレスチナの男性は基本的に日本人でいうと中2くらいの感覚だよ!」
こういったことを現地にいる日本人女性の間で話すことがあります。その理由はと言うと、20代半ば頃になってもとにかくエネルギッシュでやんちゃな印象があるからです。例えば、パレスチナでは車に若者たちが何人も乗って騒ぎ、外国人である私たちに「ニーハーオ!」(中国人だと思い込んでいる)などとヤジをとばしてくる光景をしばしば見ます。また、JVCの旧事務所の裏は広い駐車場でしたが、毎晩若者たちがドリフトをしに来ており、大音量で車のブレーキの音が鳴り響き渡っていました。20時頃になると「あー今日も始まったよ」といった感じでした。来てばかりの頃は、道を歩いていると都度大声で話しかけてくる彼らのエネルギーにたまりかね、「もう、うるさい!!」と言ってしまうこともありました。コミュニケーションの垣根の低い中東文化もあるとは思いますが、それにしても一体どうしてパレスチナ人たちは何歳になっても少年ぽさが消えないのだろう、と日頃からとても疑問に思っていました。それはパレスチナ人の男性の友達ができても変わりませんでした。日々考えているうちに、そのヒントは彼らの子ども時代にあることに気づきました。
現地NGOのキャンペーンで「子ども時代を子どもらしく過ごすためのキャンペーン」というものを頻繁に目にします。つまり、パレスチナ人たちは、子ども時代を子どもらしく過ごすことができないでいるということです。確かに小さい頃からあらゆる面で「パレスチナ人」ということだけで自由が奪われた生活を送り、家族の土地を奪われ、屈辱的な拷問を受け、理不尽に刑務所に連れて行かれるという日常を過ごせば、「失われた子ども時代」と言えるのだと思います。また、東エルサレムを日中に歩いていると、学校に行くべき時間に店で働く子どもを見かけることがあります。教育レベル、教育熱が高いパレスチナのイメージを打ち砕かれ、「あれ?おかしいな」と思ったのですが、占領下で失業率も高く、将来職にきちんと就ける保証もなく、学校の質もあまり良くないとなれば、親としては家業を手伝わせた方がスキルも得られて合理的、という判断をすることも少なくないそうです。
パレスチナにおいて夏休みに学生向けに行われる「サマーキャンプ」は、そんな子どもたちに子どもらしい経験をさせるための貴重な活動の一環です。様々な団体が関わって学校やコミュニティセンターを使用して子どもたちに色んなこと―演劇、絵画、工作、ゲーム、など―を体験できる機会を提供します。キャンプと言っても学校に泊まるわけではなく、一週間くらい学校に通ってこういった活動を行います。こういったキャンプは彼らに様々な活動を経験する機会を与えるのに貢献しています。
(サマーキャンプで演技のワークショップを受け、素敵な笑顔を見せてくれた男の子。)
夏休みの期間にガザで20代の女性と話していたところ、「夏休みと言ってもどこへも行けないし、何もすることがないのよ。さらに電気がないから本当に今年は悲惨。子どもたちはどうやって夏休みを過ごしたらいいの」と、嘆いていました。封鎖され、検問で管理され、自由に行きたいところにも行くことができない、同じ場所から移動できない、というのは、新しい刺激を受けられず、気分転換もできず、その結果ストレスがたまることに繋がり、思った以上に苦しいことだというのをこちらに来て実感します。
また、公立の学校は先生の数が足りず、狭い教室でひしめきあって学ばねばならない上、校舎も整備されていない状態です。この状態で質の良い教育が提供できるでしょうか。こういった状況を総合すると、やっぱり子どもたちにとっては圧倒的に多様なものに触れる機会が少なく、それもエネルギーを溜め込んでしまう原因になるのだと思います。そしてイスラエルに土地を奪われてしまっており、なかなか広い土地もありません。公園も非常に少なく、日本と比較するとあまりの差に驚いてしまいます。筆者の地元・仙台の街には歩いていける範囲に公園が何個もありましたが、ここでは思い切り走り回れる場所もないのです。もちろん校庭も小さなものしかなく、十分な体育の授業もできません。また、校庭があっても壁の近くなんかはイスラエル兵が催涙弾を撃ってくることもあります。大人たちも、子どもが健康で安全に過ごしたり遊んだり場所を確保するだけで一苦労です。
(分離壁の近くにある学校のため、校庭に催涙弾が撃たれることもあるそう。色々なことに気を遣いながら運動します。)
一方、子どもたちはどうやって遊ぶかと考えてみたところ、パレスチナ人は、木登りがとても上手なことに気づきました。※注(1) ガザでパートナー団体のスタッフの家を訪ねたときも、そこの家の子どもがどこまでも高い木に登り、それなりに高い塀をスタスタ歩いていくのでとても驚きました。「パレスチナ忍者!」と思わず叫んでしまいました。これはガザ以外の子どもたちでも同じでした。パレスチナの子どもは限られた中で遊びを見出そうとすると、多少危険でもそういった遊びを自然に覚えていくのだと思います。ガザでは「パルクール」という、瓦礫や塀などの障害物の上で跳ねたりそれらを飛び越えたりする超人的なスポーツ(フランス発祥)を行う団体があります。また、本当かはさておき、パレスチナ人の男性たちはよく「俺たちは常にイスラエル警察や兵士から逃げているから、足は速いよ!」というジョークを言います。
最近、長年気になっていたエルサレムに住む30代の友人(男性)たちに日頃から気になっていたことを聞ける機会がやってきました。
―「パレスチナ人は子どもらしく過ごせる時代がない」ということについてどう思う?
「僕だって13歳くらいから既にイスラエル兵からパレスチナ人であるということだけで、銃口を頭に突きつけられているよ。それも、何度も何度も。青春時代は目の前でユダヤ人が乗っているバスが爆破されるのを別々の日に4台見たし、自分にはちゃんとした子ども時代がなかったように思う。そして多くの友人がまだ刑務所にいるよ。こんな育ち方をしているのに、僕らに、いい歳だから大人に振る舞えと言っても難しいんだ。ちゃんとした少年時代を過ごせていないからね。どうしても時々騒いでストレスを発散したくなる。それは分かって欲しい。日常的にストレスを溜めているからね」
10代の頃はもちろんですが、小学生でもパレスチナ人はイスラエル兵や検問所に向かって石を投げたということで刑務所に連行され、親は数千ドルを支払い、我が子を引き取りに行きます。その子が直接石を投げていない場合もありますが、捕まってしまえば親は取り戻すために必死になるしかありません。また、筆者が聞いたケースでは家に戻ったあとも1週間の自宅謹慎があったそうです。(期間はケースにより変わると思います)また、難民キャンプなどでは、深夜に銃をかまえたイスラエル兵が家のドアを足で蹴飛ばし、嫌がらせに来ることも珍しくありません。大人でも怖いと感じるこの音を、子どもはどう感じているのかと考えただけでぞっとしてしまいます。
―パレスチナ人の多くが老若男女問わず、暇さえあればびっくり動画やお笑い動画を見つけてはSNSでシェアしているけど、いくらなんでも動画を見るのに時間を費やしすぎではない?どうしてそんなに見ているの?
「もう衝突や争いの毎日で、シリアスなことは懲り懲りなんだ。息抜きにこういったものを見て笑っていないとやってられないんだよ。ひどい日常だからね。戦争が終われば終わり、じゃないんだ。占領は日々続いていて終わらないんだ。分かるかな?時々目を背けないと生きていられないんだ。それに僕らはこの閉鎖的な毎日に退屈しているんだ。とってもね!」
「僕たちの日常生活は、イスラエルとの緊張関係のせいで、ドラマやアクションにあふれているんだよ。笑える動画やジョークを見ればそこから現実逃避できるからね。とにかくストレスが大きいから笑いを求めてしまうんだよ。」
普段からとても気になっていたことの理由を聞けて勉強になったのと同時に、占領の落とす暗い影の影響をまた痛感する結果となりました。確かに、同世代くらいの男性に10代の頃のやんちゃ話を聞くと、日本人としてはここにはちょっと書けないくらい(間一髪でよく生きていたね・・・と思うレベルでした)のやんちゃぶりなのです。今は物静かに話す友人も、「10代の頃は本当にバカなことを繰り返したと思う。後で気づくけど、そのときは毎日鬱憤を抱えていたし、善悪の区別がつかなかったんだ。親には心配をかけたと思う」と話してくれました。特に感受性豊かな年代にある10代の子どもたちが、そういった影響を最も受けやすいのだと思います。皆、想像を絶するストレスを抱えていることがインタビューからもひしひしと伝わってきました。JVCのプロジェクトでも10代の学生たちと接するので、そういった背景を今までよりももっと理解しながら子どもたちと接していかなければならないと感じます。
最後に今一度フォローをさせていただきますと、何歳になってもパレスチナ人男性たちから「少年ぽい面」が抜けないのは事実ですが、非常に大人である面も持ちあわせています。(個人的な見解です&例外もありますが・・・)まず育った環境がそうさせているのですが、若い頃から政治や社会に対する自分の意見をしっかり持っており、それを堂々と説明できる子が多いです。そして困難な状況下でもお互い助け合って暮らすパレスチナ人たちは、基本的に困っている人を見たらすぐに助けてくれます。特に友人間のその見返りを求めない底なしの親切さ※注(2)には外国人皆が驚かされるところではあります。ゲストに対しては特に最大限のもてなしをしようと頑張ってくれます。筆者が引っ越し作業をしていた時も道端の少年が荷物の運び込みを手伝ってくれましたし、どこに行ってもお年寄りや小さな子連れ、妊婦の方々に接する思いやりのある態度には毎度感心させられます。また、大家族で育っているので10代でも子どものあやし方が上手です。そして社会のサービスが不十分なパレスチナ側では、自ずと人々のサバイバルスキルが上がります。男性は特に、電化製品を何でも直せたり、かなり重いものをひょいっと運べたりします。何より、苦しい境遇で生きてきているので、心身ともにたくましい人が多く、経験値も高いので辛いことがあっても根気強く励まし、力になってくれます。
(学校、そして地域のために誇りを持って活動している東エルサレムのとある学校の保健委員会の男子学生たち(JVC事業地)。とても頼もしいです・・・!)
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