佐藤慧さんと安田菜津紀さんパレスチナ滞在記
こんにちは。エルサレム事務所の山村です。すでに数ヶ月が過ぎてしまっていて大変恐縮ではあるのですが、フォト・ジャーナリストの佐藤慧さんと安田菜津紀さんが2018年2月に現地を訪れた際、JVCはエルサレムとベツレヘムで事業地アテンドをさせていただきました。どこへ行っても歓迎されるお二人に同行でき、こちらもたくさん勉強させていただきました。
ここではお二人が訪問されたときのエピソードを紹介させていただきます。ここでは書ききれないことも多いので、ぜひ20日の佐藤さんの講演会に皆様、足をお運びください・・・!
頭に巻いたパレスチナの伝統スカーフ・クフィーヤがバッチリ決まっている優しい笑顔の校長先生は、1986年(18歳)から6年間、刑務所にいた経験を持ちます。子どもたちを皆、自分の子どものように心配し、大切にしている様子がうかがえました。
(優しい笑顔が素敵な校長先生)
「占領のせいで、子どもたちは、学校に通学することすら簡単ではないんだよ。3日前も催涙ガスが撒かれてしまった。学校が終わって家に帰る最中にも捕まることがある。検問所で止められることも多い。また、分離壁のせいで、ある生徒の母親はエルサレム、父親は西岸側に住む、というケースもある。
(アナーター男子校の生徒たち)
エルサレムIDを持つパートナーと結婚したからといって、エルサレムIDがもらえるわけではないんだ。壁に隔てられ、家族がバラバラに住むといった現実が起こっている。子どもたちは10年生(16歳)でエルサレムへのアクセスが可能となる「エルサレムID」を取得できるため、その歳に退学者が増える。家計を助けるためにエルサレムに働きに出る子が多いからなんだ。
分離壁の向こう側(西岸)に住む人たちは、大変な暮らしを送っている。家の扉を開ければ分離壁が見える。部屋を移っても、また壁が見える。学校へ来てもまた分離壁を見る。分離壁を見続けるのはけっこう辛いんだ。
この学校の子どもたちは皆、自分の子どもたちのように思っている。こんな状況で、子どもたちがどう考えているか・・・とても心配だよ」校長先生の言葉をお二人は真剣に聞いていました。
教室に移り、JVCとパートナー団体「医療救援協会(Medical Relief Society、MRS))と行っている活動を見学。この日は学校保健委員会の生徒たちによる、禁煙を訴えるプレゼンを聞きました。
(学校保健委員会のプレゼンを真剣に聞くMRSのヤスミーンとお二人。)
(禁煙ポスターはカラフルなものなど様々です。)
学校中に貼られた禁煙ポスターを目にし、「すごい数ですね・・・。これじゃあ逆に吸っちゃうような気がするけど・・・(笑)」と戸惑いを見せていた安田さんでしたが、パレスチナはそれだけ子どもの喫煙を止めるのは難しい状況です。
これは占領の現実に対するストレスを発散する数少ない方法の一つであることが多く、「喫煙はダメ!」というだけでなく、どのように健康に影響するのか、どうやって仲間からの誘いを断ったらいいのか、他にどのようなストレス発散方法があるのか、そういったことを教える工夫が求められます。
(日本と朝鮮半島について尋ねる少年)
廊下を歩いていると、とある笑顔の素敵な松葉杖をついたパレスチナ人の男の子が歩いてきて、「日本は朝鮮半島とどうして仲が悪いの?」と佐藤さんと安田さんに尋ねました。
お二人は鋭い質問にびっくりしたような表情でしたが、お父さんが韓国にルーツのある安田さんは、「交流をあきらめなければきっと手を取り合えるようになると思うよ」と答えました。 少年は嬉しそうににこっと笑顔でお二人と握手をして去っていきました。少年もその答えを聞きたくて聞いたのではないかな、と感じました。
(学校保健委員会の生徒に質問)
将来は何になりたいの?と学校保健委員会の男子生徒たちに聞く佐藤さんと安田さん。「車のエンジニア」「セールスマン」「携帯電話の修理屋さん」「プログラマー」「医者」「ジャーナリスト」など、様々な夢が語られました。やはり、「ジャーナリスト」と言われたときが一番、お二人が嬉しそうでした。ここで(普段、彼らの教師のような役目も担っている)MRSのヤスミーンが一言、「ちょっと、誰も教師にはなりたくないのね!」と不満そうに言い、笑いが起こっていました。
ベツレヘムの難民キャンプにある刺繍グループを訪問。このグループはJVCが昔から支援してきた女性グループです。英語のできるコーディネーターのマナールに案内してもらいました。
このグループの拠点となっているお家の20歳の息子さんは訪問当時、刑務所にいました。4月4日にやっと出てくる、と家族は語りました。彼は11月から刑務所に入っていましたが、先月やっと法的なアシスタントがついたとのことでした。パレスチナ人の弁護士がイスラエル人の弁護士と交渉し、刑期を短縮したと言います。
(刺繍するマナールを撮影中。)
とは言っても2000NIS(6万円相当)を払って短縮を実現したそうです。ここでは理由もなく子どもが適齢期になると見せしめのように連れて行かれることが多いそうです。
「何をして逮捕されたかって?そんな理由、何だっていいんだ。何もしてなくても連れて行かれてしまうからね」と家族は言っていました。息子さんはデモの現場に救急隊員としていただけだったとのことでした。
(手造りとは思えない精巧さ)
佐藤さんと安田さんはいつも刺繍製品の布の縫い合わせを担当する女性の作業場にお邪魔し、裏方で頑張る彼女の素敵な作業風景写真を撮っていただきました。彼女は本当にこの仕事が好きだと二人には語っていたようです。
(山村は大変な依頼ばっかりをしているせいか、彼女からまだこの言葉を聞いたことはありませんでした・・・!)
佐藤さんの撮影した写真を見れば一目瞭然、彼女は本当に喜びを持って刺繍製品を仕上げていた様子が写し出されていました。
(キャンプにて刺繍製品と安田さん。)
(佐藤さん、名刺入れをお買い上げいただきました・・・!)
歩いていると人懐っこい子どもがたくさん寄ってくるキャンプですが、キャンプ内には殉教者の似顔絵や写真が飾られており、暮らしの難しさを物語っています。
イスラエル兵のキャンプにスパイとして入った青年がパレスチナ人の仲間にそれがばれてしまい、「お前はどっちの味方なんだ!」と言われた挙げ句、自分のパレスチナへの忠誠心を示すためにその部隊のキャプテンを殺害。彼もすぐにイスラエル側によって家にいるときに殺害されてしまった、という痛ましい事件の場所もありました。(ライオンと共に「殉教者」として彼の似顔絵が描かれていました)
複雑なキャンプの現実を目の当たりにし、お二人もしばし考え込んでいるようでした。
昨年末のJVC現地駐在員報告会に足繁く通ってくださった佐藤さんと安田さん。その際、会場で流した現地でのインタビュー映像に出ていたEducational Bookshop(イスラエル・パレスチナに関する政治をはじめとする様々な分野の本が英語で手に入る、活動家が多く集まるカフェ)を経営する一家の息子、アフマドへインタビューを行いました。
(インタビューの様子)
「アメリカは(イスラエルとパレスチナの)和平を実現したいと言いながら、大使館をエルサレムに移すと言っている。これは大きな矛盾。アメリカは解決策でなく問題だけを生み出している。これまでさんざん我慢してきたパレスチナに、これ以上また妥協しろと言う。パレスチナ側の怒りが収まることはない。エルサレム首都宣言をしただけでなく、大使館も移転すると言ったのだから。
トランプ氏はパレスチナは和平交渉に応じない、和平に懐疑的だと言うが、大きな勘違いだ。こちらは"アメリカ、今までありがとう!もうきみたちのお金もいらないし、和平交渉のファシリテーションもいらない。だからもう僕たちのことに介入しないで欲しい。こちらも他の国に助けを求めるよ"と言いたい。トランプ氏はあまり成功できなかったから何かを達成したいのだと思う。大使館移転は簡単だと思っているんだ。
メディアも助けてくれない。誰もパレスチナの味方をしてくれないようだ。」
ここで安田さんが「どうしたら大使館移転は防げるの?」と聞くと、 「イスラエルのやり方はとても礼儀を欠いたものなんだ。国際法も守らず、気にもかけない。ユネスコからも脱退した。誰もイスラエルをコントロールできない。イスラエルはパレスチナに対し、何でも好きなようにできる。家も破壊できるし、逮捕もできる。軍隊も持っているし、物理的な力もある。日本の人たちには少なくとも知って欲しい」という返事が返ってきました。
ここで佐藤さんが「これはパレスチナだけの問題ではない」と伝えると、アフマドは「この問題を日本の人々に伝えて欲しい」と頼みました。佐藤さんから「必ず!」と力強く答えていました。これが20日の講演会で叶えられると思うと待ち遠しいです。
帰国のため、テルアビブに移動する時間も迫っていましたが、最後までアフマドに熱心にインタビューするお二人が印象的でした。
(ベツレヘムの壁の前で。) |
(ベツレヘムの壁、撮影中。) |
(ベツレヘムの壁の前を歩く。どこまでも続く壁の落書き。) |
(お決まりのバンクシー・ショップでお土産を。) |
(ベツレヘムにてランチ。お二人ともアラブ料理が大好き。) |
(エルサレム旧市街:センスのいいベドウィン風カフェのマスター(アフロ・パレスチナ人・イッサームさん)と意気投合。) |
(エルサレム旧市街。アル・アクサモスクに続く道。佐藤さんのお気に入りの風景。) |
(エルサレム旧市街のアンティークショップ。ここでもオーナーと佐藤さんは意気投合。パレスチナのアンティークのお宝をたくさん見せてもらいました。) |
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