ガザ「帰還のための行進」に救護要員として出向いた薬剤師へのインタビュー
エルサレム事務所の山村です。今の時期、ガザはとても暑く、タクシーで移動していても汗が全身から流れてきます。また、ミーティングや聞き取りをして宿舎に帰ると、あまりに辛い現実とかなりの暑さとのダブルパンチで、身も心もヘトヘトになります。(私が疲れている場合ではないのですが...。)
でも、それでもいつも素朴なガザの人たちのおもてなしの心にいつも救われています。自分たちは断食をしているのにコーヒーやお菓子をねぎらって出してくれたり、庭で育てた野菜をたくさんプレゼントしてくれたり、断食明けの食事会・イフタールに招いてくれたり...。
今回は、最近ガザで行ったインタビューの一つを紹介させていただきます。
ガザのラマダン中の夜、若者たちが集まる賑やかなカフェで彼女と待ち合わせをしました。いつもファッショナブルな衣装で身を包む彼女は、笑顔が素敵で向上心にあふれた女性です。
賑やかで美しくライトアップもされていて、普段の苦しい暮らしを忘れてしまいそうになるカフェでした。カラフルなヒジャーブを上品にかぶる彼女は、「人々はこういった場所に来て、現実を忘れようとしている。話すと辛くなるから、あまり現実の辛い暮らしのことを話さないようにしているわ」と語ります。
彼女はガザ市で薬剤師をしています。「帰還のための行進」のデモ現場に救護要員として出向いた経験のある彼女が、デモの様子を話してくれました。
(カフェの外の景色。カフェは発電機があるものの、何度か停電していました。)
「ガザのデモ現場では、全ての若者の脚が狙われているように思った」と彼女は語り始めました。「ガザの若者の脚を全て傷つけたいように感じるの。帰還を求めるデモに二度と参加できないように ...。一番の働き盛りの20代~30代はもちろん、無差別に全ての年代を狙っているように感じたわ。」
また、彼女は普段の生活でもデモの負傷者の様子を目の当たりにすると言います。
「私は薬局で薬剤師として働いているけど、薬局にはいつも若者たちが痛み止めを買いに来るの。来る人は皆、強い痛み止めを買っていく。それだけ痛みに耐えられないということなのよ。」
私が、 「ガザのデモ中の救護活動で亡くなったラザンさんについてはどう思う?」と聞くと、 「ラザンさんは現場では『天使』という印象だったわ。でも彼女はただの天使ではないの。ガザの多くの家庭では、まず女の子を救護要員として送りたがらない。でも、ラザンさんの家庭はそれを彼女に許した。家族も彼女もとても勇敢だと思うわ」と話していました。
「イスラエルはガザの若者たちを殺したいのだと思う。そんな若者たちを救う看護師のラザンさんは彼らにとって邪魔な存在。イスラエル側としては、できれば負傷した若者たちは救われて欲しくない。だから彼女は撃たれたんだと思う。彼女のケースは本当に悲惨だったけれど、それはほんの一部。本当に多くの若者たちが病院で苦しんでいるの」と彼女は言います。
彼女は続けます。
「男性たちは、希望が持てなくてデモに加わっていくの。職が運良くあったとしても、ローンを抱えている。給料が月に1,000シェケル(訳30,000円)~950シェケル(28,500円)くらいもらえたとしても(注1)、さらに銀行に行ってその中からローン分を支払う。そうなると、手元に50シェケル(1,500円)くらいしか残らない。それを5人とか6人で分けて生活をする。考えられる?絶望的な生活よ。人々はこのまま貧困で死ぬよりも、デモに参加して死ぬほうがいいと思ってしまうの。」
「裕福な人たちですら貧乏になっていく。人々は絶望するからできるだけ話さないようにしているの。このデモはハマスのせいだとしてハマスを責めるのは勝手だけれど、そのために人々を殺すのは間違っているわ。
ここに来た人ことがない人たちはいつもハマスがこの状況を引き起こしていると批判するけれど、それはここの状況を知らないからだと思うわ。デモに参加する人たちは、自分たちの権利を擁護しているだけなの。もっと公正な暮らしを求めているだけ。わたしたちの立場になって考えて見ればわかるはずだと思う。人々はいつも強い側についていたいと願うんだと思う。強い側についていて安心していたい。そして弱い人々の声はいつも届かない。」
彼女は裕福な家庭に育ちましたが、富裕層でもどんどん暮らしが苦しくなっていることを実感していると言います。また、自分たちの家庭が裕福であっても、周りの人たちが毎日の食べ物にも困る生活を送っているのを見ると、自分たちも気が滅入ってしまい、明るい気分で過ごすことが難しい、と話していました。ラマダン中で、一見するとただ友人や家族と食後の夕涼みをしているだけのように見えますが、皆複雑な感情を抱えながら過ごしているように私は感じました。若者たちは目の前の現実を忘れるかのようにシーシャ(水タバコ)の煙をくゆらせ続けていました。
(イフタール(ラマダン明けの食事)後のガザのカフェ。ガザのカフェの中でも一際装飾が目立っていました。)
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