REPORT

パレスチナ

学生たちのディスカッション~女性の社会参画と権利について~

みなさん、はじめまして。7月からJVC職員になった大澤です。
私はもともと国内で働く職員なのですが、今は事業補佐としてパレスチナ現地にて短期駐在しています。

パレスチナは6から8月の3ヵ月間が学校の夏休みで、JVCのパートナー団体PMRS(パレスチナ医療救援協会)が8月1日~8月11日までサマーキャンプを開き、その一部に同行してきました。


(いくつかの近隣のコミュニティから集まった7歳から16歳までの子どもたちが参加します。)

PMRSはパレスチナでも歴史のある団体ですが、JVCとは学校などと協働して「青少年の健全な成長をサポートする活動」を行っています。様々な自由や権利が侵害され、経済的にも厳しい状況下で希望をなくし、自暴自棄になる子どもたちも多くいる中で、地域に貢献する活動などを通して、自信や前向きな気持ちを持つことができるような機会をつくっています。

このサマーキャンプは、毎日所定の学校に集まって、年齢に合わせたアクティビティ(例えば、7-8歳は粘土工作、9-10歳は何を描いているか当てるゲーム、11-12歳はイスラム教の教えについて学ぶなど)を行います。
今回は、その中で文化の違いを体感した最年長グループのディスカッションについてお話したいと思います。

パレスチナ人の9割以上はイスラム教徒であり、イスラム教の教えの中には、男性は女性を守るべきという考えがあります。そのため、敬虔なイスラム教徒の家庭では、女性が顔以外を露出する服装をすること、一人で外出すること、男性に向かって意見を言うことなどが難しいことがあります。そんな中、このサマーキャンプでは、PMRSの主導で「女性の社会参画と権利」についてのディスカッションが行われており、PMRSスタッフのナジュラが私たちを案内してくれました。

参加していたのは、8人の男の子と10人の女の子、年齢は13~16歳です。

司会のボランティア女性
「女性の権利について訴えるなら、女性の優遇もするべきではないよね。例えば、仕事がある女性は、夫に(家賃や生活費などを)すべて支払ってもらうのではなくて、"男性が家賃を支払ったら女性が食費を払う"といったように、お互いに協力する必要があるわ。結婚して、金銭的な負担を全て男性に頼るのはおかしいと思う」

女の子 
「女性は全てのことについて意見を述べるべきだし、外で働く権利や、遺産をもらう権利もあるし、学校で学ぶ権利もあると思う」

ナジュラ
「女性を"助ける"のではなくて、"協力する"べきよ。男性も女性も平等であるべきだわ。男性の中には妻にはわずかなお金しか渡さず、クレジットカードなども取り上げてしまう人もいる。女性には友達と出かける権利も、一人で両親のところに行く権利もあるし、男性がそれを阻止するべきじゃないわ」

(職員やボランティアを含め参加者がみんな一緒になって真剣に議論をする様子。)


(ほとんどの生徒は、男女は平等であるべきという意見でしたが、保守的な考え方が根付いている地域から来ていた男の子3人は反対していました。)

男の子①
「女の子だけじゃなく、男だってルールに縛られているよ」

ナジュラ
「いい意見ね!よし、じゃあ男の子も縛られていることがあるとして、誰とどこに何しに出かける、って親に全部言う?家族はそういったことを気にする?絶対に家族の男性が誰か一緒に連いていかないといけない?」

男の子①
「それはないな」

ナジュラ
「でも女の子にはそうするよね。どうしてかしら?女の子の手は必ず誰かが引くもの?しかも一歩一歩。そして前向け!とか右向け!とか指示する必要がある?」

男の子①
「そう、そうするべき」

ナジュラ
「どうして?」

男の子①
「女の子だからだよ、女の子は一人で出かけてもいけないし許可が必要。そういう文化、社会だから。それだけだよ」

ナジュラ
「あなたはアッラー(神)が女の子の自由を奪うと思う?女性は外に出てはいけない、勉強してはいけない、あれはしてはいけないこれもだめなんて言うと思う?言わないわよね」

男の子②
「女の子が出かけると悪く言われるから出かけないほうがいい」

ナジュラ
「(女の子の自由を奪う)文化を少しずつ変えていきましょう。今日はもう時間だから、今日聞いた他の人の意見を自分なりに家で考えて、明日また話しましょう。私たちの意見を強制したくはないの。あなたたちの意見も否定はしない。お互いにお互いの考えをリスペクトしましょう」

話し合いの後、参加者たちに感想を聞いてみました。

ボランティアの女性(男の子たちと同じ保守的な地域から来ている)

Q:こういった話し合いをすることは難しいと思う?
A:いいえ、もう2013年からやっているから慣れたわ。
Q:ここの一般的な文化とは違う考え方だと思うけど、そういった難しさはある?
A:確かに全然違う、でも少しずつその文化や考え方も変えられたらと思う。
Q:変わってきている実感はある?
A:あるわ、昔はできなかったことができるようになってきている。少しずつ、少しずつだけど変わってきていると思うし変えていきたい。
Q:こういった活動をしていることに対して親はなんて言っているの?
A:父も母も問題ないわ。ちゃんと勉強もさせてもらえて、優秀な成績を収めたわ。家族によっては13,14歳で娘を結婚させようとするけど、私の家族は違う。私も今は20歳だけど、早い結婚はしたくない。


(物腰が柔らかく、しかし芯の通った印象を受けました。)

保守的な地域の男の子たち

Q:話し合いはどうだった?
A:あー、うーん、よかったかな(本心ではない印象)。
Q:このテーマについて家に帰って話し合える?
A:できるよ。
Q:(1人に対し)例えばあなたのお母さんはどう考えると思う?
A:それはお父さんが決めることだから。


(保守的な地域から来ていた3人の男の子たちとJVCインターン)

ナジュラ

Q:一緒にディスカッションしている女の子たちはどう考えているの?ナジュラたちの意見に賛成?
A:もちろんよ。彼女たちは勉強したいし、働きたいし、外に出たい。でもできないと思っている。どこへ行くにも、例えばいとこのところへ行くためにも彼女の兄弟が彼女の手を引いてそこまで連れて行かなければいけない。
Q:こういった教育で、何か変わったと感じることはある?
A:まだまだ、少しずつやらなきゃいけないことだから。変わっている実感はないけど、がんばるわ。


(右がナジュラ、左が14歳のボランティアの娘さん)

彼らの考えがどう変わるのか、または変わらないのか。
それをきちんと見届けるため、翌日もこのサマーキャンプに来ることにしました。

翌日の様子は後篇でお伝えします。ぜひお読みください。

通訳(アラビア語):JVCインターン 大川梨恵

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