「給料を削ってでも運営を続けねばならない」 〜ガザ地区唯一のリハビリ病院、ワファ病院・バスマン院長のインタビュー~
こんにちは、エルサレム事務所の山村です。ガザで「帰還のための大行進」デモが始まってから、もうすぐ7か月になります。人々の暮らしは悪化する一方で、ガザの人たちは尊厳を奪われたまま、心身ともに苦しい生活を強いられています。
JVCが緊急支援を続けているワファ病院のバスマン院長に行ったインタビューを共有いたします。
(バスマン院長。静かに説得力のある話し方で説明してくれた。)
Q.病院の基本情報を教えてください。
A.現在の病院のベッドは、全部で80床ある。42床が高齢者用、38床がリハビリ患者用となっている。現在、ここだと中心部から遠くて患者が病院に来にくいので、ドナーの資金でガザ市中心部に新しい病院を建設中だ。2019年1月にはそちらに移動する予定になっている。現在は高齢者のための施設を一時的に使用している状態だよ。
Q.病院の状況は日々どうなっていますか?
A.状況はどんどん悪化している。政治的にも不安定だし、人々は毎日負傷している。 当院ではおむつ、薬、理学療法、医学研究室、放射線、抗生物質など多くのものが80人以上の患者に必要なんだ。一日3度の食事を提供することだけで大変だけど(10NIS〜20NIS:約300円~600円)、患者の家族もお金がないから、病院が工面する必要があるんだ。
Q.資金調達はどんな状況ですか?
A.かなり厳しい状況だね。どんどん厳しくなっている。
Q.電気の状況はどうなっていますか?
A.今も一日4時間しか電気が通らない状況(16時間に4時間しか供給されない)だから、発電機やソーラーパネルを使用して電力を賄っている。発電機を毎日使っている状況だけれど、今日は発電機が壊れたので、5,000NIS(約15万円)をかけて直さなければいけない。
もともと発電機は緊急用であって、毎日使うように作られてはいないから、すぐに壊れてしまうんだ。今は一日20時間も使用している。太陽光発電でも電気を作っているけど、毎時間止まるし、すぐに壊れてしまうので修理が多く必要なんだよ。
発電機を使うには燃料代も必要だ。使用する燃料の量は、小さいもので一時間あたり10リットル、大きいものになると25リットルにもなるから、とてもお金がかかる。先月は、緊急時のために貯蓄しておいた6,000NIS(約18万円)を燃料代に使用してしまった。燃料費は、病院スタッフの給料から削っている状態だ。それに、もしイスラエルが燃料供給を停止したら患者のムハンマド君は死んでしまう。彼はガザ戦争で負傷して人工呼吸器を着けているけれど、電気がなければ呼吸器を使い続けることができなくなるから。
(ガザの町並みの様子。活気のなさが一目でわかります。)
Q.病院の職員(医者、看護師、その他の人たち)はどのような状況ですか?
A.きちんと給料が払えていない状態だよ。燃料や薬剤、患者への食事提供など医療に必要なものを優先するため、200人いる職員の給料を削らざるを得ない状態が続いている。 この6か月、職員には一切給料を出せていない。このまま給料を出せなければ、病院を支えるスタッフが病院に来られなくなってしまう。
Q.病院へは政府からのサポートもあるのですか?
A.政府がガザの人々の医療保険に関しては責任を負っているし、ワファ病院の主要なドナーは保健省だから、そういった意味ではサポートしてくれている。しかし今は保健省も疲弊しているから、お金を出せなくなってきており、十分な資金は得られていない。そうした中、地元の人が寄付してくれることもある。
Q.医療スタッフは何人いるのですか?
A.200人の医療従事者(医者と看護師で95人)と25人のボランティアがいる。ボランティアは大学の卒業に向けた訓練としてトレーニングで来ているから、毎月ボランティアメンバーは変わるんだ。
今来てくれているボランティアのうち4人は大学で心理学を学んでいて、当院で患者の心理ケアを担当しているよ。患者の中には、悲しみ、苦しみ、絶望によってふさぎ込んでしまい、食事を食べられなくなってしまったり、人と話をすることができなくなる人もいるから、ボランティアは彼らの話を聴いたり、明るい気持ちになる言葉をかけたり、時には抱きしめたりする。そうやって、日々寄り添って患者を癒してくれている。
スタッフは常に不足している。給料を払えないことから清掃員がストライキをして、床が清掃されずに血だらけのままだったこともある。
Q.この病院で何かリハビリ以外に特別に取り組んでいることはありますか?
A.最近は予防医療の教育も行っているよ。人は食べる物によって出来ているからね。また、うちの病院では学校教育も受けさせているよ。14年のガザ戦争以来入院しているムハンマド君も、3年生の時にここに来て、もう6年生だ。「教育」は治療の一部なんだよ。
※ムハンマド君には学校の先生が病室まで来てくれて、個別授業をしてくれていました。とても賢い子なのだそうです。
(前回の戦争で負傷し、入院しながら教育を受け続けるムハンマド君。)
Q.今までどんな団体が寄付をくれましたか?
A.最近はOCHAが寄付をくれた。ただ、以前は薬剤の購入用に70,000NIS/月(約210万円)の資金援助があったが、今は15,000NIS/月(約45万円)まで減額されている。他にはイスラム銀行、国境なき医師団、Unicefなど。毎回一回きりの寄付に終わる団体が多く、継続的な支援を得られていない。
一方で、病院では月に50,000ドル分(約560万円)が薬代として必要だ。でも、購入しても2週間でいつも薬が尽きてしまう。エジプトの薬は安いけど、偽物が多く買うことはできないから、いつもイスラエル、ドイツ、アメリカの薬を買っている。以前、安い薬を使用したら患者の容態がなかなか良くならなかったことがあって、この反省から今は入札形式にしている。でももし薬自体を寄付してもらえた場合には、入札にかけなくて済むから、すぐ支援として届けられる。
Q.バスマンさんはどうしてそんなに英語が堪能なのですか?また、エンジニアの専門性を持ちながら、なぜ病院を運営する院長の仕事をしようと思ったのですか?
A.アメリカにかつて45年ほど住んでいたんだ。18歳のときからずっと。アメリカではエンジニアとして働いていたが、故郷の状況を見かねてガザに戻ってきた。
この病院は英語を話せる人がいないから、私が外と病院を繋いでいる。もともとは医療エンジニアリングを勉強していたから、医師ではないのだけど、手術はできなくても病院の組織作りやマネジメントをすることはできると思い、2013年にガザに戻ってきた。
ガザの病院では、外国へ発信できる人材が求められていた。人々をオーガナイズし、英語で申請書を書く、そういった人材がね。
例えば、パレスチナではどうして子どもが石を投げるのか、外に向かって理由を説明しないといけない。両文化を知らずに、2つの文化の人たちに伝えることはできない。それぞれの文化にコンテクストがあって、それを繋げないといけないからね。
例えば、ガザのことを表現する際「(かつてユダヤ人を収容していた)強制収容所のようだ」と言ってあげると、欧米の人々は理解する。人に何かを伝えるには、どう訴えかければその人に響くかを考えなければならない。そのためには、言葉も重要だし、相手の文化や考え方を理解していないといけない。僕は長い間、外国人と働いてきたから、英語を話すことが出来るし、欧米の文化もよくわかっている。だから、ガザと欧米との間に立って、彼らをつなぐことができる。
(病室にいるスタッフ。5人の男性患者のベッドが並んでいた。みな、付き添いの者がいる。)
Q.バスマンさんはアメリカに住んでいたということですが、アメリカでパレスチナを支援するユダヤ人の方々にもたくさん会いましたか?
A.もちろん。アメリカのユダヤ人の人たちの中にはたくさん、パレスチナのために寄付をしてくれる人たちがいる。ここで、アメリカのユダヤ人女性がガザの状況を伝え、寄付を募っているビデオを見せてくれました。
Q.聞くのも申し訳ないのですが、聞かせていただきます。ガザの人たちはどうして撃たれるとわかっていてもデモに向かうのか、バスマンさんの意見を聞かせていただけますか。
A.サムライは尊厳を重んじていただろう?そしてそれを保てないと自害していたよね。我々にだって尊厳はあって、それを保てないと生きていけなくなるのは同じなんだ。尊厳を持ったまま死なせてくれ、となる。
我々は家畜ではないんだよ。人間なんだ。人生を楽しむ権利がある。それは、例えばガザのある子どもは、4歳で戦争を経験して、そのあとは封鎖で電気がない暮らしを経験する。そういった暮らしを送るのではなく、人間らしい暮らしを送る権利がある。人々に未来を与えるのが大事なんだ。そうしないと人々は怒ってばかりになるし、教育を与えないと人々はおかしくなってしまう。人々の安全を確保することも大事だよ。今のガザの状況はまるで、「ヒロシマ」のようなんだ。アメリカは原子爆弾を投げて、人々が降伏するのを待つ。あの感じだよ。
子どもだって同じだよ。彼らには安全で良い環境と、寄り添ってくれる誰かが必要なんだ。ガザの若者は自分たちの誇りや自尊心、自分たちの家族を守るため、そして自由や希望を求めて、自分を犠牲にしてまでデモに参加している。ガザの子どもたちは精神的に大人になるのが早い。そうならざるを得ない状況なんだ。ある13歳の男の子に、将来何になりたいのか聞いたら、システムエンジニアになりたいと言ったんだ。理由を聞いたら、自分がコンピューターを使えるようになったら、妹にも教えてあげられるからだそうだ。
同じ年頃のアメリカ人の子どもたちはたくさんのおもちゃに囲まれ、安全な環境で遊んでいるのに。ガザの子どもたちはそういう環境にない。彼らだって、他の国の子どもたちのように、安全性を気にしないでビーチに遊びに行ったり、爆弾や偵察のドローンの音に悩まされず眠ったりしたいんだよ。でも、近くの家に行くにも、空を見上げ、安全を確認しなければならない。子どもたちが安心して、勉強し、子どもらしく遊び、子どもらしくいられる環境を作ってあげないといけないんだよ。
(聞き手:JVC 大澤、山村)
冷静に淡々と病院の状況に関して説明をするバスマン院長でしたが、職員の給料を削って燃料費を捻出したり、資金難で食事を出せない病院が多い中、患者さんに栄養をつけるために三食食事を出したりするなど、大きな使命感のもとに動いていました。ギリギリの運営でいつ倒れてしまってもおかしくない状況ですが、止めるわけにはいかない、といった彼の強い意志が感じられました。
リハビリは負傷者の将来を支える大事な役目を担っています。このともしびが消されることのないよう、JVCとしてもできる限り支援をしていきたいと思っています。
この6か月、職員には一切給料を出せていない。(1)本来、ワファ病院では医者と看護師の給料は平均して月30,000円程度支払われることになっている。
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