スーダン・軍事衝突から4カ月。問題の根源は何か?
皆様こんにちは。JVCスーダン・南スーダン事業担当の橋口です。スーダンで大規模な軍事衝突が勃発し、早くも4カ月。依然として戦闘は混迷の様相を呈しています。本稿ではこの紛争を誘起している「根本の」原因と構造をご説明申し上げます。
まず、スーダンの国際NGOフォーラムが発表した、直近の被害状況を示す数字は惨憺たるものです。この4カ月の間に各国が幾度にも渡って試みた停戦合意が不発に終わり、その間にスーダンの主要都市(特筆して首都ハルツーム)は言語に絶する阿鼻叫喚の状況と化したと言います。私は以下の報告を目の当たりにし、俄かに自分がつい先日まで居住していた街の事とは捉えられませんでした。
(爆破されたハルツーム市内の病院)
スーダン共和国は第1次スーダン内戦、第2次スーダン内戦、ダルフール紛争など独立以降通算で半世紀以上に渡る内戦を経て社会基盤が非常に脆弱であるため、この衝突が発生する以前から国民の生活を支えるためには膨大な人道支援を必要としてきました。
その人道支援も、国が置かれている状況によって志向が変わります。国の情勢が最低限安定していれば恒久的解決を目指した経済社会開発など「国造り」に取り組むことも出来ますが、今回のような大規模な衝突が発生した折には国際社会が拠出する資金は、まずは被害を受けている人々の生命を維持するべく緊急支援へと向かいます。今回のような事態を受けて、長期的視座に基づいた計画的な支援が、対症療法的な手当てへの「後退」を余儀なくされるのです。
内戦は国の経済発展を延々と遠ざけるばかりか、その基盤とするべき社会インフラのことごとくを破壊します。前述した様に兵士が病院に立て籠っていては、敵軍は彼らを掃討するために容赦なく医療施設に攻撃を加えます。それぞれの交戦勢力に如何なる大義があったとしても、自国民のことを思えば一にも二にも停戦することが先決です。
(首都から南コルドファン州へ続々と到着する国内避難民)
もう一つ由々しき問題があります。それは緊急下において子ども達の教育が後回しにされるという一般的傾向に対し、今のスーダンも例外ではないことです。
国際連合人道問題調整事務所(UN OCHA)の2022年秋時点のレポートに拠ると食料、水・衛生、保健の各分野にはそれぞれ1,170万、1,100万、1,010万米ドルの資金が付いたのに対し教育分野はおよそ三分の一の370万米ドルに留まります。2023年4月の軍事衝突が発生する前でこの比率ですから、2023年度はより一層差が開くことが見込まれます。
優秀な人材なくば国が自力で持続的に発展していくことは出来ません。スーダンの置かれている(無謀な軍閥が態々引き起こした)現状を鑑みれば、国際社会からの支援に限度があるのは致し方ないかもしれませんが、スーダンの軍事政権は自国の将来を担う人材に投資せず目先の武器ばかりを購入してどう国の将来を思い描こうというのでしょうか。国富たる天然資源を海外へ密輸してまでそれを武器に換えるなどという所業は全く以て言語道断であると言わざるを得ません。
(紛争の再燃に頭を悩ます現地人道支援者)
また、今回の軍事衝突が発生する以前からスーダンでは就職難から軍に活路を見出す若者が後を絶ちませんでした。そして目下苛烈な戦闘が続く中それぞれの交戦勢力による新兵のリクルートが継続しています。金などの天然資源がある限り、火に油を注ぎ続けるかの如く諸外国からスーダンに武器が供給される構造 – ここに第一の、外的要因に拠る問題があります。
他方、自国の政策判断として、いつまでも内戦という挙に出続けながら包括的に国民の教育水準を高めず、彼らが生活を維持するための現実的な手段として軍への就職を選択し続ける循環 - この第二の、内的な問題を悪しき物と為政者が認識せねば、スーダンは金儲けに手段を厭わない諸外国に都合よくあしらわれ続け、やがては虎の子の天然資源すらも枯渇してしまいます。これは2018年以降、国民が希求し続けた民主化の真逆にあるものです。
逆説的に、武器と人員 双方の供給が充実しているという軍閥にとって大変都合の良い状況を、国際社会が外交圧力等を通じて解消できなかった事が、スーダンを事実上の内戦に引き戻したとも言えるかもしれません。私は自国民を退避させその後はスーダン内政をほぼ放置した各国の対応を非常に酷だと感じました。直近では報道すら目にしません。
さて、JVCはスーダン南部に位置する南コルドファン州で教育事業に取り組んでいます。
衝突が勃発した2023年4月以降、職員の安全確保や送金の問題で活動を停止していますが、州都カドグリの情勢が落ち着き次第、活動を再開できる体制を確保しています。従来の「科目を履修する場」としての学校を目指しつつ、まずは子ども達の精神面のケアから取り組む予定です。
南コルドファン州においても弱体化した国軍を見て、SPLM-Nという別の軍事組織が2016年以降7年間維持された事実上の停戦を破棄し、再び全面的な侵攻に打って出ました。誠に信じ難いことに、弊会が10年以上の永きに亘って社会の安定・平和構築に取り組んできた支援対象地域で再び避難民が発生しています。無辜の村民が砲撃を逃れ支援対象校に押し寄せているのです。
今、戦火に晒される子どもたちが重度の心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患わぬよう、彼らの精神面のケアは一刻を争います。このような状況を受け私たちJVCは度重なる避難生活に苦しむ子どもたちが子どもらしく安全に過ごせる場 (Safe Learning Space) を提供するべく日々最善の対応を模索しています。引き続き皆様方の暖かいご支援、何卒宜しくお願い致します。
(学校の再開を心待ちにする子供たち)
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