最後にみんなで歌った「ふるさと」の3番は、次のように書かれています。「志を果たして、いつの日に帰らん。山はあおきふるさと。水は清きふるさと」。この「懐かしき未来」を、原発事故が進行中の福島でどうつくっていくか。これまで国内であまり活動をしてこなかったJVCですが、三春の、福島の、そして日本の「未曾有」の挑戦に向けて、私たちJVCも「新しき一歩」を踏み出しました。
終了事業:福島県の農家の応援
4月23日、「滝桜」を擁する福島県三春町で農業を営む会沢さん、松本さんという二人の女性を中心に、彼女たちとこれまで関わり持つ人も持たない人も、一緒になって福島を元気づけようと花見まつりを開催しました。滝桜は樹齢約千年。あいにくの雨でしたが、日本三大桜の名に恥じない妖艶な美しさを見せていました。週末ではありましたが、原発と雨も手伝って人出は例年の3分の1程度でした。おかげで十分に満開の「滝桜」を鑑賞することができました。
(日本三大桜の一つ、三春の「滝桜」)
その後、一行は三春町が提供してくれた交流会会場(自然観察センター)にバスで移動。そこでは、地元の農家の女性達が「幸せむすび」と名付けられたおにぎりと豚汁を用意して歓迎してくれました。地元の女性たちも含めれば総勢約150名。それぞれが、地酒の「三春駒」が置かれた机の周りを囲むように座り、実行委員の内田さん(PARC事務局長)の司会のもと、会がはじまりました。まず、被災者への黙祷。そして、JVC代表の谷山が開会あいさつの後、住民主導でユニークな行政改革を進めている三春町長とJA田村の専務の挨拶をもらいました。
(福島や東京から約100人が参加)
今、福島の農民は、震災と津波被害に加え、原発事故による放射能汚染によって苦しめられています。原発の事故処理に見通しが立たない現状の下、先行きが見えない不安感が高まるばかりです。三春町は阿武隈山系にあって地震の被害は小さかったのですが、原発はそうはいきません。屋内待避に加えて、農作物の出荷停止命令と放射能汚染の「風評被害」が農民から行動の自由を奪い、体と心にストレスを与え続けています。また、桜祭りで地元農産物を直売して重要な家計の柱としてきた農家たちにとっては大きな経済的損失ともなっています。今回の桜まつりは、そんな八方ふさがりの福島の農家に少しでも風穴を開け、元気づけようというのがねらいです。
私たちが、今回のまつりを地元でつくってくれた農協婦人部の会沢さんと松本さんに会ったのは、まつりのわずか3週間前の4月4日でした。南相馬を訪問し、当地のNPOや自治体から話を聞いて周り、三春に戻って農民の方々を訪ねる中で出会ったのが先の会沢さんと松本さんでした。
(「このおむすびは『幸せむすび』だよ」)
この時、ちょうど放射能汚染の土壌調査の結果待ちで、農民はみな心安らかでなかった時でした。しかし、二人は手作りの田舎料理で私たちを歓待してくれて、おいしい料理を前に話は弾みました。そんな中で、会沢さんが「どんどん町の元気が奪われている。皆が集まって、笑って、語り合う場をつくりたい」と述べた言葉が私たちの胸に突き刺さりました。この農家の女性たちが元気にならないで「復興」はあり得ない。「復興」という言葉で政府は色々な政策を打ち出すだろうが、それがこの土地とコミュニティを壊さないとも限らない。農家の女性たちが主役にならなければ、真の「復興」はあり得ないと思ったのです。そこから、現地の人びとを元気づけ、人と人、人と自然のつながりを確認し、新しい一歩を踏み出すきっかけをこの三春の里からつくろうということになり、みんなで外に出て、出会い、語り、楽しむ「花見まつり」を開催しよう、ということになったのです。
東京に戻り、早速、PARCやAPLAなど農業に関心を持つNGOに声をかけ、実行委員会を立ち上げました。しかし、そこで議論になったのが「まつり」という言葉でした。福島に限らず、他県でも今回の震災と津波で苦しんでいる人たちがまだまだ大勢いる。そんな中、「花見まつり」なんて不謹慎と言われかねないのではないか、と心配する声がありました。侃々諤々の議論の末、実行委員会では「まつり」という言葉の持つ積極的な意味に期待をすることにしたのです。「まつり」はもともと自然災害と共にありました。荒ぶる空と大地を神と敬い、鎮めるために人々は集い、祈り、自然と交感し、力を得る場が「まつり」だったのです。であるなら、「まつり」はむしろこの未曾有の大災害に見舞われた今こそ意味を持つはずだろう。桜のもとで集い自然と交感しながら、自然から得る恵みを食らい合って、生きる力を取り戻し、これからについて語り合うべき時なのではないかということです。原発は天災ではなく、明らかな人災です。しかし、制御を失った原発は人智を超えたところにある。原発を「神」とは言えないが、火を燃やし続ける怒り狂った「怪物」を前にして、私たち人間は自らの小ささを認め、謙虚であることを求められているのだろう。「まつり」は、そんな小さな人間たちを集わせる場なのだ。
(三春の農作物の販売も)
会場には、福島と東京以外からも、山形や山梨、そして九州からも農家や消費者が駆けつけてくれました。そして、参加者から様々な質問や意見が述べられました。三春で自主的に放射線量を調べて安全な野菜として出荷しようという意見や情報が錯綜する中で子どもたちだけでも避難させようという意見まで本当に色々な意見がでました。また、双葉町で実際に津波に被災し、お連れ合いと4ヶ月になるお孫さんを亡くされた方。長年、産直で有機野菜を育ててきた農家が受ける風評被害の実状を話す方もいました。その一つ一つの経験と意見は重く、深く考えさせるものでしたが、そうした意見交換を進めるうちに次第に参加者の間で、「今、本当に大変な時なんだ。だからこそ、皆で協力して新しい一歩をつくらなければ」というある共通の決意みたいなものがふつふつと湧き出してくるような感じでした。そして、それは会沢さんの閉会の挨拶。「私は、こういう本音を語り合う集まりがしたかった」という言葉に集約されています。
(お餅や味噌、おまんじゅう。三春の恵み)
最後にみんなで歌った「ふるさと」の3番は、次のように書かれています。「志を果たして、いつの日に帰らん。山はあおきふるさと。水は清きふるさと」。この「懐かしき未来」を、原発事故が進行中の福島でどうつくっていくか。これまで国内であまり活動をしてこなかったJVCですが、三春の、福島の、そして日本の「未曾有」の挑戦に向けて、私たちJVCも「新しき一歩」を踏み出しました。
※2018年度末をもって、東日本大震災関連の活動はすべて終了しております。多大なご支援をいただきましてありがとうございました。
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