REPORT

諦めずに前を向く人々とともに/担当今中の事業にかける想い

今日のレポートでは、スーダン事業現地代表を務めながら、2022年3月に調査のためにイエメンに渡航したスタッフの今中から届いたメッセージをお届けします。

学生時代からイエメンに関わりつづける今中のこれまでとこれから、そしてJVCの新たな活動。ぜひ最後までお読みください!

(写真:活動パートナーであるNMOのスタッフと。左から2人目が今中)

イエメンと初めて出会ったのは、12年も前のことです。

大学でアラビア語を専攻していたので、アラブ諸国のどこかに留学することは入学当初から決めていましたが、イエメンのサナア旧市街の写真を見てからは、中世の世界がそのまま残されたような世界に惹かれ、現地の語学学校にメールを送ったのがきっかけです。 

旧市街の中にある語学学校だったこともあり、そこには、想像を遥かに超えた異世界が広がっていました。

 真横のモスクから流れる大音量のアザーン、短剣を差した男にニカブ(女性が着用するベール)から目だけを出している女、カート(覚醒作用のある植物の葉)を嚙み続ける男だけの結婚式、そして、とにかく優しすぎる人々。

(写真:結婚式で踊る男たち。女は建物の窓から下を覗いている)

夜中、空港で迎えが来なくて立往生しているとき、初めて会ったのに家に泊めてくれた人もいました(その後、両替してないだろうとお金までくれた)。テレビから流れる東日本大震災の衝撃的な映像にショックを受けていたとき、抱きしめて一緒に泣いてくれた人もいました。 

当時から「アラブの最貧国」と位置付けられていましたが、かつては「アラブの幸福」と呼ばれていたのも納得するほど、誇り高い特有の文化と、厳しくも豊かな自然がありました。

(写真:標高2,000m以上の山肌の絶壁に立つ家々)

しかし滞在中に「アラブの春」がイエメンにも波及し、国内は混沌としていきました。大統領が爆殺未遂に遭い、最大部族が政府に対し反旗を翻し、耳を澄ませば銃声が聞こえ、夜空には曳光弾が光っています。

これからイエメンがどうなっていくのか?と後ろ髪を引かれながら留学を終え、日本の慌ただしい生活に戻りました。

大学を卒業し、社会人生活を歩み始める一方で、イエメンでは政情が更に混沌とし、遂に2014年にアンサールッラー(フーシー派)がサナアを制圧し、サウジアラビアやUAEをはじめとするアラブ連合軍が空爆を開始しました。次第に戦闘の死傷者が増え、何百万人の人が避難を強いられ、職を失い、希望を見失っていく。

頭のどこかに「イエメン」があるものの、何も出来ないまま月日は流れていきました。

(写真:2011年大統領打倒を唱える民主化運動「アラブの春」の一幕)

悲しいニュースも沢山入ってきました。スポーツクラブで一緒にバレーをしていた仲間、いつもお茶を運んでくれていた友人の息子、茶目っ気たっぷりだった家具市場の少年が戦闘に参加し命を落としました。

イエメンにいるときはいつも必ずおごってくれた親友が金銭の援助を求めてきたり、精神的な不調を訴えるメッセージも受け取りました。

(写真:家具市場ですれ違うと絡んでくる少年は激戦地で亡くなった)

自分が紛争を解決するとか、助けが必要な人すべての困りごとを排除するとか、そんなことは出来ないですが、自分を受け入れて、あれだけの愛をくれ、人生を豊かにしてくれたイエメンとそこに暮らす人々に対し、「何かしないと!でも何を?」という気持ちが大きくなっていきました。

そんな折、新卒で入った会社を退社したのちに入職したJVCでは、「本当に必要なところに支援を届ける」ためにゼロから事業の見直しをする機会がありました。心の中にはイエメンがありましたが、外務省の定める危険情報が10年以上も最高レベルの「4」の国は、活動地としては無謀なのか?とも思い発案には躊躇しました。 

しかし蓋を開けてみると、発案者は自分だけでなく、更に賛同者も増えていきました(さすがJVC!)。 

そこから情報収集、議論を重ね、遂にこの春、イエメンに入国することができました(一文で書きましたが、とてつもない時間と労力がかかりました)。

10年ぶりのイエメンは、、、やはりイエメンでした。

今回訪問したのは南部のアデンという地域ですが、人の良さ、変わらぬイエメン料理の美味しさに、北も南もありません。絶賛建設中のホテルや道路、活気あるイベント、リーダーシップをとる快活な女性たち。「紛争国」のイメージとはかけ離れた一面に驚きもしました。

 一方で、そのまま残る空爆の跡、不衛生なテントに密集した避難民、そこら中にいるカラシニコフをぶらさげた兵士、物乞いをする女性や子ども、ガソリンやガス管を求める長蛇の列、ドル表記の商品。

紛争と、そこから受ける経済的な影響をもろに感じる機会がそこら中にありました。

(写真:避難民キャンプでの聞き取り調査)

中でも、家族を支えるために路上で働く子どもや避難民キャンプに溢れる子どもたちの姿にはショックを受けました。 

この子たちは将来、どうなっていくのか?そしていつか戦争が終わったとしても、教育を受けていない世代が社会を支えるとき、どんな世界が描けるだろうか?頭の中がいっぱいになりました。

(写真:ペットボトルを集める子ども)

調査のための渡航を終え、JVC内で様々な観点から話し合いを持ち、まずはイエメン現地のローカルNGOと協力して、就学前教育支援を進めていくことにしました。紛争下で暮らす子どもたちは多くの場合、極度の心的外傷を受けています。まずは安全な場所で友達と学習する場をつくることで、少しでも彼らが日常を取り戻すサポートができたら。

同時に、イエメンで現在進行形で起こっている戦争を日本の皆さんにも知ってほしいと思います。そして、国際情勢に翻弄されながらも、諦めずに前を向く人々が現地にたくさんいることも。

執筆者:今中 航(スーダン事業現地代表)

大学でアラビア語を専攻し、在学中にイエメンに留学。革命や紛争の影響等でライフラインが崩壊した生活、教育を受けられない子どもたちや仕事を失う大人たちを目の当たりにする。途上国・新興国のインフラ支援に携わりたいとの思いで電力メーカーにて海外営業に従事したのち、2018年度JVCに入職。2022年3月、調査のためイエメンに渡航。

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